VOL.8 完全なる隷属化
魔法の修練が終わり無事にラフレイトへ戻ってきた。その足で冒険者ギルドへ行き、薬草採取の依頼を終わらせる。その後どうするかと外に出て属性金属でも売ってないかと歩いているとどうやら倉庫が沢山並んでいる所へ来てしまった様だ。どうやらこちらには何も無さそうだと引き返そうと思っていると、何やら喧(やかま)しいむさい男が喋っていた。
全く意識してなかったから分からなかったが、どうやら俺に向かって言っているようだ。それにエリーにもか。
「何か用か?」
「用か? じゃねぇ! 人の事を延々と無視しやがって!! おいおまえ! 何でおまえがその魔法使いと一緒にいるんだよ。そいつB級パーティーの魔法使いじゃねぇか。そいつの仲間は死んじまったんだろ?」
「ああ、そうだがお前に何の関係があるんだ?」
「関係どうこうじゃねぇ! てめー程度がそいつの横に居られるんなら俺だって居ていいだろ。おいそっちの女、俺の仲間になれ」
「随分横柄な方ですね、どうしますこれ?」
「ん? どうするってもう殺してしまったが?」
「え?」
エリーが聞いてくる頃にはすでに右腕を前に突き出し、指全体を1本の槍の様に尖らせ、目の前にいるむさ苦しい男の喉を突き刺していた。カフッと血の息が漏れ、それもすぐに物言わぬ屍と化していく。
それにしてもなぜエリーは驚いているのだろうか? こんな害しか齎(もたら)さない生きてる価値も無い奴が死んでもなんら問題ないだろう? そう思っているとエリーからお叱りの言葉が飛んできた。
「あのですねハリス…… 殺すなら殺すで場所を弁(わきま)えないと後々、処理が面倒でしょう」
ああ、そうか、と今度殺す時は殺しても問題にならない場所まで移動してから処理するとしよう。
幸いここは倉庫らしき建物が多くある場所で人通りが全く無い。運が良かったようだ。
とりあえずこれどうする? 土にでも埋めとくか? 等と相談していると、エリーが、「また私みたいに体を乗っ取れないのですか?」と聞いて来た。
それが出来るならどんなに良いか。だがそれは出来ない……が、少しこいつを使って実験をしてみるか。
「どこかに見つからない場所は無いか? こいつで少し試してみたい事がある」
「そうですね…… では街の端へ行き、地下に空間を造りましょうか。こちらへ着いて来て下さい」
エリーの後へ着いて行くのはいいが、この男をどうするかと思いマジックポーチに入れようとしてみた。だがなぜか入らない。薬草は入るが死体はダメか……どんな差があるのか分からないが、出来ないのなら仕方ない。別の方法を考えよう。
そうして考え付いた方法が、ただのでかい布に血が出ないようにして担いでいくという方法だ。人が周りにいないからとりあえず今はこれでいいだろう。さっさとエリーに着いて行くとしよう。
「さて、この辺でいいでしょう。では地下に穴を掘っていきますので3分ほどお待ちください」
「ああ、任せる。とりあえずこいつを隠せるだけのスペースは先に作っておいてくれ」
「はい、ではそこへ置いてください」
指定された場所に置くとすぐに地面に沈んでいく。そして続いてエリーが地面に沈んでいく。そこにぽっかりと穴が出来ていて、あまり人に見られないようにさっさと俺も穴に入る事にした。
すると3分もしない間に周囲10mほどの空間が出来あがった。この空間はただの穴ではなくしっかりと周囲の壁が補強されているものだ。そこへ先ほど沈ませていた死体が地面から出てきて俺の目の前に現れた。
ではさっそく実験をする事にしよう。
「何をするのですか?」
「ああ、俺の意思を、つまりエリーみたいに分身とも言える物をこの体に移すだけの力はまだ戻っていないからな。ならばこの体の一部をこの男の体に入れて脳を支配できないかと思ってな」
エリーはなるほど、と頷いていた。
エリーは俺の意思その物の欠片が入っているようなものだ。だがそれはもう出来ない。感覚的な物だが、もう1体奪えるほど力が残されてないように思う。それがなんなのか分からないが、もう1度やれば俺はきっとまたあの何も無い真っ暗闇の所へ戻ってしまうのではという危機感があるのだ。だから今回は意思そのものではなく体の欠片で代用してみる事にした。
そうして俺は自分の体の一部、ほんの数ミリ程度だが、その金属の欠片に俺がこれからこの男にして欲しい事を記録していく。そしたら俺の欠片が脳を支配し、この男の体を乗っ取り、金属片にプログラムした命令で体がそれに従い動いていくといった事が出来るのではないか? そう考えたのだ。小さな金属片自体は単細胞生物のように決まった動作をするだけだが、生き物の脳を支配したならば、その記憶を漁り人工知能のように成長していくようにしてある。
とりあえず穴の開いている喉から俺の金属の欠片を埋め込んでいき、その穴を治療して塞いでいく。
――余談だが水魔法を覚えたので回復魔法も上級のものを使えるようになっている――
そしてその欠片が忠実に俺の命令した通りに動くかをじっくりと見守っていく事にした。
「うまく行きますかね?」
「多分な。だが失敗してもこれからも実験していけばいいだろう。使えれば情報収集に役立つだろう」
「それもそうですね。1度で成功させなければいけないと言うことでもないですからね」
エリーと二言三言、言葉を交わし、それからは無言で見つめていく。
どれくらい時間が経っただろうか。数分かもしれないし数十分かもしれない。そんなゆっくりと時が動いていた瞬間に、突然変化が生じた。
目の前の動く事のなかった体が少しづつ動き始めたのだ。
「動きましたね。無事、脳を支配出来たでしょうか?」
「さてな……だが今は脳の確認をしているのだろう。死んでから時間が経つと脳が死んでいくらしいからな」
心肺停止すると脳へのダメージが出てくる。そして大体3~4分すると脳へ深刻なダメージが残り、50%は死に至るという。
この男が死んでからすでに10分近く経っているだろう。ならば脳が完全に死んでいても仕方がない事だ。だがこうやって動くという事はなんらかの方法で動かしているのだろう。
とりあえずは金属片に俺の使える魔法も使えるようにはしておいた。なのでおそらく雷魔法で電気を放っているのだろうか? それは目の前の体が起き上がったら聞いてみることにするか。
それから所々、体が痙攣のように動き続けていた。そしてその動きが徐々に大きくなり出す。そして痙攣していた動きから、ひとつひとつ体の動きを確認するような動きに変化していき、どうやら今は起き上がろうともがいているような動きをしている。生まれたての小鹿のような状態だ。
「どうやら体を動かして、その動かし方を学習しているようだな」
「ええ、ほんとに不思議な動きですね。私は脳が無事だったので記憶を読み取りすぐに動けましたが、私も脳が死んでいたら同じ動きをしたのでしょうか?」
「どうだろうな。おまえとこいつは違うやり方で生み出しているからな。多分脳死していてもすぐ動けたんじゃないか」
エリーも自分の兄弟、もしくは子分が出来るのを期待しながら自分と少し重ね合わせているようだ。
だがやはり似て非なるものだろう。エリーは俺の意思の分身のような存在だ。それがこの男は金属体の欠片で動くだけだ。
言うなれば科学者が自分そっくりの分身を他人の体を使って作り出したのがエリー、そしてその科学者が一定の動きをするプログラムに人工知能を搭載したナノ粒子を死体に取り込んだのが、今奇妙な動きをしている死体になる。
なので俺はエリーは分身のような相棒という認識だが、この男はただの使い勝手のいい奴隷のような存在だろう。まぁエリーがどう思おうが特別正す事ではないので言わないが。
そうこうしている内に、とうとう男の体が立ち上がってきた。どうだ、成功したか? と思っていると、きちんと理解できる言葉で喋りかけてきた。
「脳の大半が死んでいたので時間が掛かりました。完全ではありませんが読み取りに成功し、命令を実行しました」
エリーと二人で顔を見合わせ頷きあいながら、少し頬が緩むのを感じる。
とりあえず命令と言うのは脳を乗っ取り記憶を読み取り、その体を自在に動かす事。そしてもし生前の意志が邪魔してきたら抹殺して完全に己の物としろ。これだけだ。
だがどうやら……
「成功しましたね」
「ああ、大成功だな。脳が無事ならば乗っ取れるが、死んでいた場合はどうなるかと思っていたが、何とかうまく行ったようだ」
実験の成功に二人で喜びながら、目の前の男に命令を下す。
「ではお前の名前はなんだ?」
「はい、名前はジガッドという名のようです」
「そうか、ではお前はこれからジガッドとして生きていけ。怪しまれないように記憶にある通りの言動を心掛けろ」
「ん~、それはやめて置いた方がよろしいかと」
「ん? どういう事だエリー」
「多分このジガッドという男は問題をたびたび起こすタイプです。ならば生前のように振舞っていたらすぐ捕まるか死ぬでしょう」
「ふむ……確かにな。では記憶で己以外の人間が不快な思いをしている事をなるべくしないようにしていけ。そうすれば少なからず揉め事は減っていくだろう」
「はい、了解しました。ではジガッドとなり、なるべく人間たちが嫌がることをやらないようにしておきます」
それでいい、と頷き、今は普段通りに死んだ事などおくびにも出さずに生きていけとさらに命令しておく。そしてとりあえずは目的を与え、この街ラフレイトとこの世界|(ローレルというらしい)の事を調べるように指示しておく。
そこでふと疑問に思ったのだが、なぜ脳死しているのに動いているのかと思ったら、どうやら俺の体の一部、金属片が脳の代わりに雷魔法で体を電気信号で操っているらしい。それに記録するのは、まだまだ容量の余っている金属片自体に書き込めるし、まだ脳の一部が生きている為、そこに書き込む事も出来るという。ただ脳は少しの衝撃で記憶があやふやになる為に、重要な事柄は金属片に書き込むとの事。
こいつ大分知能が発達しているなと思い、嬉しい誤算に頷いておく。大して人工知能を細かく設定してはいなかったのだが、思いのほかレベルの高い知能が付いていたようで助かったな。今度からはもう少しきちんと設定してみるか。
設定と言っても大した事はしていない。単純に基本行動、そして記憶を読み取りそれを元に対応を変えていくだけだ。なので自分でどんどん人間の振る舞いを吸収していく人工知能と化していく。
なのでそこら辺は個人差が出るが、今回は単純な命令をしたのが功を奏した感じだ。なぜならジガッドという男は見るからに阿呆だったからな。あまり難しいプログラムを設定しても反(かえ)って邪魔だったかもしれん。
とりあえずこうして無計画に人間を殺してしまった事の後始末を問題なく終えたのである。
そこでエリーと話し合ったのだが、この方法が使えるのなら多くの情報、そして有益な情報を持っていそうな生き物を狙って支配できるのではという話になった。確かにこの手は使えるなと思い、出会った人間や他の生き物達を観察し、そして支配していく事に決定したのである。
そしてこの方法の名前をリトル・ドミネーター。小さな支配者と名づけ、これからはそう呼んで行く事にした。
徐々に生きる事だけでなく死なないように、そして情報収集と段階を踏みながらだが、確実に事が進んでいる。
まだこの世界へ来て1ヶ月も経っていないのだが、ようやく俺がこの世界へ来た事が正解だという確信を深めていくのだった。
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