VOL.6 準備は整った

 鉱山へ行った疲れが癒えたのか、朝に目が覚めたときはスッキリと起きることが出来た。

 そして俺が起きるとすでにエリーは起きており、朝食が用意されていた。どうやら宿のスタッフに朝食を用意させていたようだ。準備がいいことだ。確かに昨日は疲れのせいもあって夕食を抜いていたな。そう思うと腹が空いてきた。鉱山の中にいた時はずっと簡素な食事だったから、久々にまともな食事にあり付けるのは嬉しい物だな。

 二人で朝食を食べ、この後のスケジュールを確認しあうとさっそく外へと出る。


「まずは取ってきた物を売るか。どこへ行けばいい?」

「まずはドラゴンの素材から売りましょうか。では冒険者ギルドへ行きましょう」

「わかった。行くとするか」


 まずはドラゴンの素材を売るようだ。多分、依頼の報告も兼ねての事だろうと思う。昨日は疲れて即刻、宿へ行ってしまったからな。さっさと面倒な事は終わらせとくか。


「寄り道もせずともそこそこ遠いな」

「そうですね。次は馬車で移動しますか?」

「いや、今日はいい天気だ。歩いていくか」

「そうですね、わかりました」


 せっかく雲一つ無い素晴らしい快晴の空なのだ。特別な用事も無いしゆっくり行こうでは無いか。

 と、ようやく冒険者ギルドへ着いたな。さてドラゴンはいくらになるだろうか?


「おはようございます、何か御用ですか?」

「依頼が終わったから伝えに来た」

「はい、では依頼書をお願いします」


 依頼書に完了印が押されているのを確認した受付嬢が銀貨1枚を渡してきた。やはり鉱山の依頼は強敵を倒しても値段が変わらないか。ほんとこれを受ける奴は稀だろうなと思い、次はドラゴンの素材を売りに行く。

 場所はギルド内の依頼を受ける部屋の隣の場所にある。そこへ行き素材を見せると……


「……え? まさかドラゴンですか? ……これどうしたんです?」

「はい、倒しました。革と牙、それに爪を売ります。ああ、あと血もきちんとありますね」

「えぇ…… 倒したって、どうやってですか? これって下級とはいえレッドドラゴンの仲間ですよね?」

「そのようですね。水魔法でちゃちゃっとやりました。無駄話はいいので買取お願いします」

「は……はい。 水魔法で? ……どうやってだろう?」


 何やらぶつぶつ言いながら奥へ引っ込んでいく買取屋の受付嬢。やはり下級とはいえドラゴンはドラゴン。そりゃ簡単に倒した何て言ってきたら戸惑うよな。だがそんな事は一切気にしないエリー。さっさと宝石などを売りに行きたいようだ。

 そして帰ってきた受付嬢の言ってきた査定額は全部まとめて、金貨8枚と大銀貨5枚だそうだ。

 俺には高いかどうか分からないのでそんなものかと思い受け取ると、エリーもこんなもんですかとどうやら納得はしているようだ。だがドラゴンにしては安いのでそっちは不満を持っているらしい。もっと強いやつだったらと呟いているが見なかったことにしよう。


 何はともあれ無事に取引を終え次の場所へ移動を始める。


「次はどこだ?」

「次は宝石と貴金属をまとめて取り扱っている大きな商会があるので、そこへ行きましょう」


 ほう、1箇所でまとめて売れるのか。それは楽でいいなと頷きながらその商会へ向けて歩き出す。

 天気がいいので少し気分よく歩いているとすぐに商会へ着いた。


「ここか。何て所だ?」

「はい。ここはディサベル商会と言う所です。この国では一番大きな商会らしいですね」

「そうか。なら下手な金額は言ってこまい。別々で売った方が幾分高くなるかもしれんが、専門知識がないんだ、大きなとこで信用できる所がいいだろうな」

「はい、きっとここなら変な事にはならないでしょう」


 国一番の商会だ。信用が大事だという事を知っているだろうから、ここでまとめて売ってしまうか。

 そういう事でさっそく商会の中へ入り、受付の男に用件を伝える。


「宝石や金属を売りに来たんだがいいか?」

「はい、いらっしゃいませ。数はどの程度お有りでしょうか?」

「そこそこ多くなる」

「かしこまりました。では部屋を用意しましょう。こちらへどうぞ」


 数分で終わるなら受付で買い取り出来るだろうが、数が多いとそうもいかない。なので部屋を用意するという。中々しっかりしているようでさすが国で一番だと納得した。

 そして部屋に着き宝石専門の鑑定士と金属専門の鑑定士2人と先ほどの受付にいた老齢の男性が数分後に再びやってきた。


「ではまずこちらのテーブルに宝石を。そしてこちらの低いテーブルには金属をお願いします。」


 どうやら二人で同時に始めるようだ。早いに越した事はないので、こちらも馬車の移動時間などを利用して宝石や金属をお互いのマジックポーチに整理して入れてある。俺は宝石を、エリーは金属をまとめて持っている。なのでそれぞれ分かれて用意されたテーブルに置いていく。


「ほう、中々に珍しい物もおありのようでございますね」

「そうか。俺には分からないからそちらで適当な値段を付けてくれて構わない」

「畏まりました。責任を持って鑑定させていただきましょう」


 受付の男性が答えている間にも鑑定士達は黙々と鑑定をしていく。宝石はダイヤ、ルビー、アイオライト、アパタイト等など。

 金属は亜鉛、銀、銅、鉄、カドリニウム、タングステン、それに各種レアメタルが少量だ。

 どちらもそこそこの量があり、なかなか金額が大きくなりそうだ。

 そして滞りなく鑑定を終わりそうな時、俺の前に居る宝石の鑑定士が何やら言ってきた。


「これはどこから取れたのでしょう?」

「ん? その黒っぽいのか? それは近くにある鉱山からだったはずだが」

「そうですか……まだこういう物が取れるのですか」

「なんだそれは?」

「はい、これはペイン石という大変珍しい物でございます。小指の先ほどの大きさしかございませんが、こちらは蒐集家達に大変人気の宝石でして、時価で龍金貨数枚はするかもしれません」


 どうやら一番初めに取れた価値の無さそうな小さく黒っぽい石は大当たりの宝石だったようだ。エリーが気になると言っていた物だったな。よく分かるものだ。俺は捨てようかと思ったがまぁ取っとくかと取っといた感じだったが捨てなくてよかったようだ。


「すべて鑑定し終わったようです。いかが致しましょう? ペイン石は大変貴重でございます。高額でのお取引をご希望ならオークションという手もございますが?」

「ここだといくらで買い取って貰える? それとオークションだといくらくらいになりそうだ?」


 暫く黙考していたが、鑑定士と少し会話をし金額を提示してきた。それはこの街の商会にあるお金だとギリギリ賄える程度の金額になるという。なのでこれ以上欲しいのであればはオークションか時間が必要との事。

 その金額は予想よりは幾分安かったが、俺はさっさとミスリルが欲しい。なので少し交渉する事にした。


「龍金貨1枚に白金貨1枚か。オークションだと龍金貨2~3枚になるかもしれないと……では買取で任せたい」

「よろしいのですか? こちらとしましたらとても有り難いお言葉でございます」

「ただし条件を付けて良いか? 俺はミスリルを欲している。それも装備などではなくインゴットでだ。なので金の変わりにミスリルで貰いたいのだがいいか?」

「おや、ミスリルが欲しいのでございますか? ではお渡しになる金額全てをミスリルにはさすがに出来ませんので、今この街の商会にあるミスリルをお渡しになるということでどうでしょう?」

「ああ、構わない。ただ金が足りなくて出せない分はミスリルに含めてくれ」

「畏まりました。幾分安くなりましたので、その分はミスリルに含めて換算させて頂きましょう」


 ミスリルがいくらするか分からないが、現金で出せない分はミスリルにして貰う事により、安くなりそうだったが通常の価格で取引することが出来た。

 一応こちらの損はないのでいいだろう。得したいならオークションだが開かれるのが1ヶ月ほど先になるとの事。ならば少しくらい値段が下がろうが売る事にして、俺が強くなる事でこの先儲ける額を増やした方が効率はいいだろう。

 という事で交渉は纏まり、金額にして龍金貨1枚と白金貨2枚。ミスリルのインゴットが200kgといった結果になった。もう少しミスリルが欲しいと思ったが、これ以上出すと商会でミスリル不足になりそうなのでここらが限界だという。

 まぁ金属の中でも貴重な物が200kgも出たら流通にも影響するのだろう。そこそこ大きな街だからこそ、この街の中からミスリルがなくなったら大事になる。なので全て出す事が出来ないのは仕方ないな。


 それに俺の体を作り変えるのもこのくらいあれば全身隈無く作り変えることが出来るだろうし、今回はこれで交渉成立させる事にした。

 エリーも何も言わないので特に騙されているという事もないだろう。そういう意味も込めて大きな商会で取引してよかったと思う。

 そして現金とミスリルのインゴットをマジックポーチに入れて商会から出て行き、さっそく宿に帰り体を作り変えることにしようではないか。



 ――ちなみに地球のように現金ではなくデータでのお金のやり取りはないのかとエリーに聞いてみた所、全くなくはないが、冒険者がそれを嫌って現金主義を貫く者が多く、それに伴い商人達も現金を持つしかなく、中々カード化といった事が進んでいないとの事。

 なぜこういった事が起きたかというと、冒険者は駆け出しが死ぬ事が多く、先輩冒険者が駆け出しを助けても大した持ち物がないのでお金でお礼をする事が多いのだが、カードに入ってると個人間ではお金のやり取りが出来ないのだ。なのでお礼目的に適当に助けるといった事もなくなり、新人冒険者は助かりたいなら現金を持てという噂が広まった。

 それに死んだ冒険者から装備をと思っても獣や魔物にどっかへ持っていかれてカードだけがという事もある。その場合はカード以外の持ち物がない為、他の証拠品がなくどうやって取ったか証明できないのだ。

 それにカードが見つからなければ預けたお金も本人以外に外へ出す事も出来ないので国やギルドでカードの中のお金を没収するという事が起きてしまい、冒険者達はそれに対し反発し、今の現金主義が作り上げられたとの事。


 結局殺して奪ったお金もカードも変わらないと思うのだが、カードからの手続きは結構面倒で、そういうのも冒険者が嫌っているという事もある。盗賊達からしたら万々歳のシステムだろうが、現金はそこまで大量に持ち歩くというのはあまりないらしいのでこのままでも問題ないと思う人が多いらしい。

 基本的に高額になる商品を扱わない冒険者達だからこそ現金主義で通るのだが、それらから素材を買う商人は高額商品を扱う事もあるが、それもまた一部の商人達なので、商人も冒険者用に現金を持つといった仕組みが成り立っており、この世界は基本的に現金での取引が主だという。


 まぁカードがどこか行ったらもう預けたお金が取り出せないとか面倒くさい事この上ないしな。とりあえず現金でのやり取りが安心という事か。

 それに大金になると、冒険者ギルドや商人ギルドといった所で年額いくらかを払う貸し金庫みたいなのがあるそうなので、大金持ってる人はそこに入れるか屋敷を買い、自分にしか分からない倉庫を作るかするそうだ。

 俺達はマジックポーチがあるからそこに入れてエリーに預けとく。きっとそれが一番安全だろう。下級だがドラゴンを容易く倒せるのだ。そこが安全でなくてどこが安全というのだろうか。



 ともあれ大金を持ち、懐が暖かくなった事も特に意識する事もなく、これから数日掛けて体を作り変える事にする。

 部屋に誰も入れないようにエリーに言って置き、ようやく右腕以外も金属融合をする事が出来る。早く始めようではないか。


「エリー、これから始めるから後は頼む。食事も何も取らずに終わらせる」 

「分かりました。では私は扉の近くで待機して見守っておきます」

「ああ、誰か来たらよろしく頼む」


 こうしてついに全身を金属融合するチャンスが回ってきたのだ。

 まさか失敗はすまいが気合を入れ、万が一にもこのチャンスを逃す事がないようにしていく。

 次にエリーと話す時はすべてが終わっている時だろう。

 その時俺がどうなっているのか、実に楽しみだ。

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