VOL.4 鉱山での初仕事は強敵退治

 朝が来てミスリルが出る鉱山へ向かう馬車まで歩いていく。

 馬車の乗合所は街の出入り口付近にあるようだ。

 さっそく向かうが向かった先に奇妙な生物がいた。


「なぁエリー。あれはなんだ?」


 馬車を引くための生き物なのだろうが、見た目が物凄い違和感があるのだ。

 普通に見たのならサイのような生き物だ。だが足がすごく長い。そして体もサイよりは太く見える。


「あれはラウンドブルという馬車を引く牛だったと思います。本来ならば非常に獰猛なのですが、生まれた時から育ててあげれば、人間にとても従順になるようですね」

「あれは牛なのか…… サイのような外見をしているな」


 エリーがいうには牛らしい。だがサイの見た目をしている。牛にサイの鎧と角を追加した感じの見た目だろうか。不思議な生き物がいるものだ。

 見た目ならエリー達が戦ったマンモスのような魔物の方が違和感がなかったな。

 聞いた所によると、あのマンモスのような魔物はエレフォーンというらしい。本来は大人しいようだが、魔力溜まりに長時間居た為に異形の魔物へと変化したようだ。といってもマンモスの体がでかくなった程度の変化だったみたいだが、本来は高さが2mあればいい所、あの魔物は5mはあったからな。随分と強くなったようだ。

 魔力溜まりに行けば俺も強くなれるのかと疑問に思い聞いてみるが……


「魔力溜まりに長時間いても意思が保てれば大丈夫ではないでしょうか」


 などと、素で返されてしまった。どうやら俺は冗談が下手らしい。

 そんな事は置いといてこの馬車、いや牛車か? は大丈夫なのだろうか? と聞いてみた所……


「見た目は変かもしれませんが、馬よりも早く持久力もあるので結構早いようですよ。それに死んだら食べられるようですし」


 と、何やらいらない事まで言ってきたので適当に相槌を打っておく。

 しかしそうか……この牛、早いのか。まぁサイみたいな見た目でサイは意外と速いらしいから間違ってはいないのか? 等と思っていると鉱山行きの牛車が出発するようなので、それに乗り込んでいく。


 護衛はいらないのかと聞いたが、鉱山への道は安全だし、このラウンドブルも強いらしいので必要ないとの事。

 なので今が朝7時になろうかという時間だが、夜の6時には着くという事だ。

 約11時間も暇になるが歩くよりはマシなので黙って乗る事にする。

 この時間を使って心話の使い勝手を確認する事にしよう。


「(この心話は魔力は消費するのか?)」

「(ん~、どうでしょうか。ハリスと私の繋がりで通じ合っているだけなので魔力はいらなそうですけれど)」

「(そうか。なら魔力を使って出来ないだろうか? そのうち仲間も増えるかも知れんからな)」

「(多分できると思いますよ。かなりのコツが必要らしいですが、一部の人達は出来るみたいですので)」

「(なるほどな、なら魔力での心話もやってみるか)」


 こうして11時間もの長い時間を心話の改良で費やしていった。

 結果から言うと時間は掛かったが魔力での心話もうまくいった。多少の魔力を必要とするがなんとか使う事は出来るようになった。元々心での会話が出来ていたのだ。出来ないわけが無いが思いのほか時間が掛かってしまい、これは心話をやった事がない人ならば出来ないのも頷けるのだった。


「そろそろ着きますので、荷物などお忘れなくお願いしますね」


 御者からもうじき着くとの報告を受けて降りる準備をする。元々荷物などほとんどなく、あってもマジックポーチにすべて入れているので、多少の装備品を忘れなければいいだけだ。

 そうそう、このマジックポーチというのは中々高価な物らしいが、中堅以上の冒険者だと大抵パーティに1人くらいは持っているそうだ。だが4人全員が持つパーティは上位の者くらいだという。

 マジックポーチの値段は金貨1枚~数枚とのこと。内容量によって違うんだとか。

 エリー達が持っていたマジックポーチは中くらいの内容量で金貨4枚だったとの事。大体10畳の部屋程の面積だそうだ。今は4個あるので俺とエリーが2つづつ持っている。

 一応装備系を入れる物と日用品や食料を入れる物とに分けている。


 さて、さっそく着いた鉱山に入ってみるか。


「ここが鉱山か。」

「はい。ここは魔物があの森と同じくらいの強さだと思います。なので中堅者以上でないと厳しいでしょう」

「よく鉱山で働く人達はそんな魔物がいる場所で働けるな?」

「ええ、そもそも鉱山で働く人達は腕に自信がある人が多いです。なぜかというと鉱山で出た物の7割はその見つけた人の懐に入るので、一攫千金を目指す人が多いからですね。ただ魔物もそれなりに出るので力の無い者達はその一攫千金すら出来ないので、鉱山で働くこうにも働けないので、必然的に強い物ばかり残るようです」


「ならなぜ冒険者達は勝手に鉱山で出た物を持っていっていいのだ?」

「それはこの鉱山がもう粗方(あらかた)取られてしまったからですね。なので鉱山で働く人たちも一部の人以外は別の鉱山へ行ってしまっています。この鉱山ももうじき閉鎖されるのではないでしょうか」


 さらに詳しく聞いてみると、鉱山から金属類が沢山出ていた頃は、坑夫達が沢山いるので、ちょっとやそっとの魔物が来ても数に物を言わせて撃退できるそうだ。だがそれらが取れなくなるとどんどんと人が減っていく。そうすると少なくなった坑夫達だけでは魔物を撃退できなくなるので冒険者達に依頼を出すが、報酬がかなり安いので中々依頼を受ける人がいない。そこで魔物をある程度退治してくれたなら、鉱山内をある程度自由に掘っても良いという。

 なるほどな。確か報酬は銀貨1枚程度だった気がする。数日掛けてやるべき仕事で魔物もある程度強い。

 中堅以上の冒険者じゃないと魔物を退治出来ない。でも中堅以上の腕があるならもっと美味い依頼が沢山ある。そりゃ鉱山へ行くやつが少ないわけだ。


 まぁ俺にはこれほど美味しい依頼も無いので何回でもここに通いたくなるがな。

 ではさっさとミスリルの採取を開始しようではないか。


「ではさっそく鉱山の中へ行ってみるか」

「中に入るのはまだ先になりそうです。まず鉱山の管理者に依頼を受けた事を伝えて、その後は鉱山の外の魔物狩りに行くのではないかと思われます」

「そうか。ではさっさと管理者に依頼を伝え魔物共を狩りに行くか。今はミスリル発掘の時間が少しでも欲しい」

「はい、ですが今日はもう日が暮れてきましたから明日にしましょう」

「む? ……そうだな。暗い中強い敵に襲われたら万が一にもあるかもしれんしな」


 チラっと空を見上げたが確かに陽が傾いてきている。これではやめた方が無難だろう。仕方ない、日が変わってからにするか。

 こうして牛車移動だけで1日が終わってしまったが、近くにあるモーテル小屋に泊めて貰い、日が変わり朝の光が出始めた頃にすぐに管理者に会いに行った。


「管理者はもういるだろうか? いるならさっさと会いに行くか」

「多分もう起きてるでしょう。では行きましょうか」


 鉱山の管理者に依頼に来たと伝えたらよく来たと笑顔で迎えられた。中々に筋骨隆々な男だ。やはりこのくらいはないと鉱山などで働く事は出来ないのだろう。

 そしてエリーが行ったように最初は鉱山の周りを見てきて欲しいそうだ。弱い魔物などは気にしなくていいが、それなりに強い魔物が出た場合は退治して欲しいようで、討伐部位も冒険者ギルドに渡すのと同じ場所でいいらしい。

 俺は討伐部位が分からないのでエリーに任せることにする。これは仕方ない事だが、ほんとエリーがいなけりゃ俺はこの世界生き延びれていないかも知れんな。だが頼れるやつがいるのだ、今は最大限頼りさっさと強くなろうじゃないか。


「では行ってくる。鉱山を一周だけでいいのか?」

「ああ、何周もしてたら時間がいくらあっても足りないからな。まずは一周してそれで強い魔物がいなけりゃそれでいい。居た場合はもう一周頼むかもしれんがな」

「わかった。ではな」

「気をつけて行けよ」


 強い魔物が出た場合は他にも強いのがいる可能性があるとの事。強い魔物に引き寄せられ他の強い魔物が寄ってくるということもあるのだとか。

 さっさとミスリルを取りたいので出来れば出て欲しくは無いが、こればかりは運次第なので仕方ないだろう。


「ではエリーは俺が勝てない敵の時だけ頼む。まずは戦闘経験を積んでいきたいからな」

「わかりました。ある程度の回復魔法も使えますので危険になったら勝手に助太刀いたします」

「ふっ。助太刀ときたか。地球の知識が少しは伝わっていたか」

「ええ、竹田という男の知識が少しだけあります。気持ち悪い男ですねこの男は」

「まぁ変わってはいるな。俺も目の前にいたら殺してしまいそうな男だと思う。ほんとこのハリスという男が来てくれて良かったものだ」

「ええ、ほんとうに…… 竹田の体でしたら近寄りたくないので別行動していた所です」


 意外とエリーははっきりと物を言うではないか。いやまぁ同意見だがな。

 歩いて鉱山を回るにはほぼ半日以上掛かるので、少し記憶の精査もしてみたりした。無駄口にも意味はあるのだ。


 そうして4時間ほど経った頃だろうか、ちょうど鉱山の半分を過ぎようとした頃、それは現れた。


 ――キキキーッ   キキーキッ キキーッ!!


「どうやらそれなりに強い魔物のようです。どうしますか?」

「そうだな。今までは魔物と言えない動物のようなやつしかいなかったからな。今度も俺がやってみよう」


 先ほどから数回戦ったが、どれも雑魚ばかりで右腕の拳を数回殴り付けるだけで死んでしまうようなものばかりであった。これでは訓練にならんと思っていたが、今度は歯ごたえが良さそうな魔物が出てくれた。

 今度は少し本気にならなければいけないだろう。もしかしたら勝てないかもしれない。だがエリーがいるのだ。死ぬ事は無い、全力で行こうか。


「エリー、補助魔法を頼む」

「はい、初めて使いますね。では掛けます。《ブースト・アップ》」


 初めて身体能力を強化する魔法を掛けてもらう。これは一定時間だけ身体能力を1.5倍ほど上げる事が出来るようだ。


「これは良い。右腕がミスリルだからバランスが取れなかったが、筋力があがり器用に扱えそうだ」


 右腕だけが金属で重かったのだ。なので歩くのにもバランスが悪く意外と疲れる。だがブースト・アップを掛けて貰った事により、筋力がアップしてバランスの悪さがハンデにならなくなった。これならまともにやり合えるだろう。


 と、思っていたら目の前から飛び出してきた。鳴き声のとおり猿の魔物のようだ。だが思ったよりでかい。俺と同等の大きさだ。


「気をつけてください。この魔物はストロング・エイプといい、異常に力が発達したオランウータンの仲間です。俊敏性もかなりのものです」

「わかった。右腕主体にして他は触られないように気をつけよう」


 見ただけで分かる筋肉で所々が膨れ上がっており、あの手に捕まってしまえば握りつぶされるかもしれん。細心の注意を払いながら右腕に持ったブロンズの剣で切りつけていく。

 それをストロング・エイプは事も無げに避けていき、交わせない攻撃は筋肉の分厚い所で受けダメージを軽減している。

 こいつ、頭もそこそこ良さそうだ。やはり強くなればなるほど知性が宿っていくのだな。ならばそれを利用してやろう。

 こちらも何度も殴る蹴るだけでなく噛み付きや掴んで握りつぶそうとする攻撃を剣とミスリルの右腕を駆使して防御していく。


 そして頭が良いのを利用し、剣を思い切り叩きつける動きを見せる。するとそれにすぐさま反応し避けようとするが、そこで剣を思い切って手放してみる。

 まさかの行動にエイプは面食らい必死に避け距離を取ろうとするが、こちらもそれは予測済み。

 こちらの武器がなくなったかと思うだろうが、もう右腕自体が武器になっているのだ。変形も容易く操れるようになっている。

 そこで剣を手放し一気に接近し、手を――正確には指をアイスピックのように5本全部を鋭く細く尖らせる。それを思い切りストロング・エイプの心臓めがけ突き刺していく。


 さすがに胸筋が発達していたが、するどく尖ったミスリルを耐える事など出来ずに心臓へ到達させてしまう。

 だが死期を悟ったのか突き刺したミスリルの腕を思い切り噛み付き、握り潰そうとしてきた。

 それも予測済みで体を右腕以外をエイプに近寄らないようにしていた為、標的になったのは右腕のみでこちらにはダメージは一切無いままに、ついにストロング・エイプは事切れるのだった。




「エリー、見てみろ」

「どうしました? ……これは!? ……すごいですね」


 勝利の余韻もないままに握られた右腕を見てみる。するとどうだろう。ミスリルと融合してありえないほど硬くなったというのに手形がはっきりと見てとれるほどに跡が付いているのだ。

 これはどれだけの握力があればミスリルを握り潰せるというのだろう。1トンどころの話ではないほどの握力がありそうだ。


「油断はしていないがこれは予想外だな。頭を掴まれていたらそのまま潰されていただろうか」

「そうかもしれません。私もここまで強いとは思いませんでした」

「エリーはこいつと戦った事はあるか?」

「はい。2度ほど戦いましたが、意外と魔法に弱いので魔法でさくさくっと倒してました」

「なるほどな。なら今度はエリーに任せるとしよう。万が一にもあるかもしれんからな」

「わかりました。今度からは私が担当します。この様子だと他にも強い魔物が来ているかも知れませんので、もう一周する事になりそうですね」

「そうだな…… 世の中うまくいかん物だな」


 無事ストロング・エイプを退けたが、その思わぬ力に気を引き締めさらに鉱山をもう一周しなければいけない事になり、少しばかり士気が落ちかけたが仕方ないと切り替え、無事鉱山を二周(ふたまわ)りし終えた。

 その時にはもうすでに日が変わりそうな時間になっており、さっさと昨日泊まったモーテルへ戻り休む事にする。

 そして起きたら、ようやくミスリルのインゴットを探しに鉱山内へと足を踏み入れることが出来る。どのくらい取れるかは全く分からないが、少しでも取れればと期待しながら、この日は寝る事にした。


 ちなみにストロング・エイプの討伐報酬はないとの事。銀貨1枚に討伐代も入っているとか。

 そりゃこんな依頼受ける奴はいないよな、とエリーと頷きあうのだった。

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