VOL.3 初めての街、ラフレイト

 まずはエリーが拠点にしていた街へ行こうと思う。そこで資金がある限りミスリルを買い込み、体を作り変えていく予定だ。

 その為には最初に厄介事を済ませてからにしようか。その厄介事とはエリーの仲間である3人の事だ。こいつらはもう死んでいる。だからその報告をしなければならない。

 もし報告しなければエリーが生きている――正確にはエリーではないのだが、体がエリーなので結局はなぜエリーが生きているのかと問題になる。ならばこちらからさっさと説明した方が後々、楽になるだろう。

 ということで、さっそく拠点となるであろうラフレイトという街へ繰り出す事にした。

 まずは街へ入る為の証明書が必要らしいが、そんな物は持っていない為、少しのお金を払い街へ入る為の仮の許可証を貰うとの事。その後で冒険者ギルドへ行きギルドカードを発行して貰い、仮の許可証を返せばお金が返ってくるという。


「なるほど。金は持ってないがエリー達は持っているだろ?」

「ええ、私達はそこそこの冒険者だったのである程度の金貨はありますよ」

「貨幣価値を知らないが聞いても良いか?」

「はい、上から――――」


 龍金貨が1億G、白金貨が1千万G、金貨が1百万G、大銀貨が10万G、銀貨が1万G、大銅貨が1千G、銅貨が1百G、最後に小銅貨が10Gとなるようだ。


 価値は地球の¥(えん)と同等の価値ということらしい。



「エリー達の資産はいくらあるのだ?」

「そうですね…… 多分白金貨が数枚くらいだと思います。お金だけですと白金貨1枚あるかどうかですね」

「なるほどな。装備が高いから資産としては持っているが現金はそこまでではないと。――だがまぁ1千万もあれば多少は融通が利くだろう」

「はい、そう思います」

「おっと、そうだ。死んだ3人の装備は持っていた方がいいのか? それとも売るか?」

「そうですね…… ハリスが装備できる物は残しておいて、重戦士の装備などは売ってしまってもよろしいかと」


 死んでしまった3人は上位の冒険者であり、前衛から戦士バッツ、重戦士ガンツ、僧侶マキリという職業と名前であり、すべて男と言う事だ。

 どうやらこの男3人の中に一人、女としていたエリーは逆ハーレムかと思いきや、3人とも性癖が特殊だったらしくエリーに興味がなかったという。だからエリーは襲われる心配がないから他のパーティーを抜けて、この3人と行動を共にしていたとの事。


「とりあえず、俺が使える装備は何がある? 戦士の装備は使えるだろうが他に使える装備はあるか?」

「そうですね…… 今は使えない装備もマジックポーチに入れておいて資金不足になったら売りましょうか」

「そうだな。急いで売る事もないだろうな」


 使えそうな装備を整え、ようやく森を出て拠点となる街、ラフレイトへと移動を開始するのである。


 中々に大きな門が見えてきた。この街はそれなりに大きいようだ。聞いたところによると人口5万人は居るだろうとの事。意外と人の数が多いようだ。

 そうこうしていると門から街へ入ろうとしている者達の列が見えてきた。


「意外としっかり警備しているのだな」

「そうですね。そこそこ大きい街ですから、犯罪もそれなりに起こりますので」


 なるほどな。人が多ければ多いほど犯罪も増えるか。それならば警備が厳重になるのも仕方ない事だ。

 そろそろ俺たちの番になってきた。何か言われないか心配だがエリーがいるんだ、無事に通れるだろう。


「そこで止まれ。何用でこの街へ来た?」

「はい、冒険者ギルドの依頼を終わらせて帰ってきたところです」

「そうか、なら身分を証明する物を見せてくれ」

「はい、どうぞ。ちなみに隣に居る人は森で倒れている所を保護してきました。持ち物は持ってなかったので仮の許可証を貰えませんか?」

「ん? ……お前はB級の冒険者だったか。そいつは何も持ってないのか? なら待っていろ。銀貨1枚かかるがいいか?」

「はい、構いませんよ。どうぞ」


 そう言いながらエリーは銀貨を渡し、門番は許可証を取りに行った。

 なんだ。意外と簡単に入れるものだなと思っていたら、エリーが上位の冒険者という事で多少なりとも信頼してくれたとの事。

 これが俺一人だったらかなり調べられて長時間拘束されていただろうと言ってきた。やはり警備は中々厳しいようだ。


 冒険者は信用されやすいのかと聞いたら、そんな事はないという。上位になれるのは人格に問題が無いことが証明された者だけとの事で、下っ端の冒険者は荒くれが多い為に信用は一切されていないらしい。


「エリーが上位の冒険者でよかったよ」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでも。この後は冒険者ギルドへ直行するか?」

「ええ、他に用事もありませんし、まずはやるべき事をやってしまいましょう」


 話しているうちに門番が仮の許可証を持ってきており、それを受け取りその足で冒険者ギルドへ向かう事にする。


 大きな看板に大きな文字で分かりやすい冒険者ギルドの建物が見えてきた。

 街の中心に近い所にあるようで、なんでも緊急の際に召集を掛け易い様に街の中心に建てたらしい。

 色々と考えているのだなと思いながらギルドの建物の中へ入っていく。


「まずは受付で用事を済ませましょう」

「ああ、まかせる」


 エリーがさくさくと迷いなく受付へ行き、森で起こったことを伝える。

 すると死んでしまった3人のギルドカードを見た受付の女性が少し悲しい顔をしたが、すぐに気持ちを切り替えて職務を全うする。

 慣れている事だろうがやはり人が死ぬのは悲しいのだろうな。


「そうですか……そんな事が」

「ええ、3人とも即死だったようで、助ける事も叶いませんでした」

「エリーさんはどうして生き残れたのでしょうか?」

「私はこのネックレスが助けてくれたようですね」

「それは…… え!? まさか伝説級(レジェンダリィ)のアクセサリーですか?」

「はい。これが防御のバリアを瞬時に張ってくれたので私だけ助かる事が出来たようです」

「そうですか……もうそれは使えないのですか?」

「多分無理でしょうね。1度きりの物だったのかもしれません」


 伝説級(レジェンダリィ)  これはアイテムのランクになるようだ。

 上から神話級、幻想級、伝説級、古代級、精霊級、名匠級、通常級と7つの階級(クラス)に分けられるようだ。

 その中で伝説級は金貨数枚~数十枚は必要とされ、とんでもなく高価な品のようだ。それが1度の危機で壊れてしまえば、受付の女性のように微妙な顔になるのも仕方ない事だろう。


 その後、少し話をし、ようやく俺のギルドカードを作る事になった。


「ではこちらの用紙に必要事項を記入して下さい。終わりましたら左手にございます受付までお持ち下さい。代筆が必要でしたらおっしゃって下さいね」


 俺のことは特に問われる事もなく、普通にギルド登録できるようだ。

 色々な事があるからいちいち聞いて調べる事はないらしい。ちょっと杜撰ではないかと思うがこちらとしては有り難いので特に言う事もなく、用紙を受け取る。藪蛇をつつく事も無いだろう。

 それと文字はエリーに任せることにする。後、必要なのは名前と戦闘方法と適正くらいか。

 ……ん? 適正とはなんだ?


「え? 適正ですか? 確か水晶に手を当てて、魔力量や属性の適正を見るんだったかと。多分こちらで記入する物ではないですよ」

「なるほどな、なら名前や戦い方だけでいいのか。エリー頼む」

「わかりました。こちらで必要な物は書いておきます」


 滞りなく用紙への記入は書き終わり、左の方にある受付へそれを持って行く。


「はい、ギルドへの登録ですね。銀貨1枚になります。ではこの水晶に手を当てて下さい」

「これだな?」

「はい。どうぞ」


 エリーが銀貨を渡し、その間に俺は左の方から出してきた水晶を左手で触ってみる。

 すると……何やら受付嬢の様子がおかしい。


「ん? どうした?」


 だんだんと受付嬢の顔が青くなっていく。なんだ? 何か問題でもあったか? 等と思っていると向こうから何か言ってきた。


「ま、魔力がありません。 ……どういうことでしょう?」

「ん? 魔力ならあるぞ。その水晶がおかしいんじゃないのか?」

「そ、そうですよね。ではもう一度お願いします」


 そして今度は右手(・・・)で触ってみる。

 すると今度は水晶が小さく発光し魔力があることを示したようだ。


「あれ? ……魔力がありますね。一般的な魔力量です。 ……さっきのは何だったのでしょう?」

「俺に聞かれてもわからんぞ。その水晶の不具合じゃないのか?」

「ん~、多分そうなんでしょうか……。こんな事今まで無かったもので。初めてのことに動揺してしまいました」

「いや、気にするな。今度はちゃんと測れたのだろう?」

「はい。今度は無事に測れています。すいませんお手を取らせました」


 今度は無事に魔力を測る事が出来たようだ。


 ――ふぅ、危ないところだった。水晶が左手に近いから左手で触ったが、まさか魔力がないとはな……。


「(どうやら魔力は金属融合した右腕にしかないようですね。それ以外に魔力が通っていないとは知りませんでした)」

「(俺もだ。まさか融合した所しか魔力がないとは思わなかった。これは早急にでも他の体の部位も作り変える必要が出てきたな)」


 心話(こころわ)でエリーからの言葉に返答しつつ、これからの優先事項を確認しあった。

 ギルドカードが出来次第、早急に装備店へ赴き、ミスリル製の装備を買いあさる事にしよう。ミスリルは高級な為、どれだけ買えるか分からないが、それでもこのままの状態でいる訳にはいかないだろう。


「(ギルドカードが出来たら装備店に寄ってくれ。そこで買えるだけミスリルを買う)」

「(はい、わかりました。ギルドの近くに安くて品質のいいお店があるはずです)」


 心話でエリーに装備店の場所を確認し連れて行ってもらう事にする。

 金属融合するのはミスリル以外でもいいのだが、自然と魔力を回復してくれる金属でなければ、俺自身が魔力を回復させられない。そして魔力を扱う事も出来ないので、少々値は張るがミスリルを融合するしかないだろう。

 問題はどのくらい買えるかだが行ってみてのお楽しみだ。


「お待たせしました。こちらがギルドカードになります。無くしますと銀貨3枚での再発行になりますのでご注意をお願いします」

「わかった。手間をかけさせたな。また来る」

「はい、またのご利用をお待ちしております」


 こうして冒険者ギルドでの用事を済ませた後は、すぐさまミスリルを買いに装備店へ向かった。


「ここです。ここにミスリルの装備が置いてあるはずです」

「いらっしゃい。何をお求めかね?」


 エリーの説明の後にすぐ中から人が出てきた。

 なんだかちっこい人間だな。などと思っていると向こうもそれが分かったのだろう。説明をしてきた。

 どうやらドワーフという種族らしい。


 この世界の人間の顔はこの地球人のハリスの顔とそう大差はない。

 だがこのドワーフの顔は少し野生に近い顔をしている。顔の大半が毛で覆われているからだろうか? とりあえず人間ではないという事は一目瞭然だ。


「ワシの顔なんかはどうでもええだよ。何が欲しいんだい?」

「悪かったな、じっと見つめてしまって。ミスリルの装備が欲しい。出来れば安い奴を大量に」

「なんじゃその注文は? どんな装備が欲しいのかは無いのか?」

「ないな。ミスリルが欲しいだけだ」

「ふむ…… ならミスリルのインゴットでも取ってくりゃええんじゃないのか?」

「インゴットだと? ……たしかにな」


 どうやらミスリルが欲しいなら装備じゃなくても良いだろうと言う事だ。

 確かにその通りだ。俺は装備が欲しいのではなくミスリル自体を欲している。なら値段が高くなる装備品よりミスリルの塊で装備品よりかなり安くなるインゴットの方が都合がいいだろう。

 このドワーフ、中々良い事をいうではないか。


「ミスリルの装備とインゴットはどのくらい値段に違いがありますか?」

「そうだな…… ざっと2倍~5倍は違うんじゃないだろうか?」


 エリーの問いにドワーフが答える。

 なるほど……こりゃ失敗したかもしれん。食べてしまったミスリルの長剣を売ってインゴットを買えば2倍~4倍の量は買えたかもしれない。

 そう思っていると……


「(あの長剣を使ってしまったのは少し早まったかもしれませんね)」

「(ああ、俺も思っていたところだ。だがこれからはインゴットで十分だと気づいたのだ。それに融合自体も出来るか分からなかった。結果オーライという事でいいだろう)」


 エリーが結果オーライ? と、その言葉が分からず首を捻っていたが、俺の知識全てを持っているわけではないのかと少し疑問に思った。まぁ俺の一部を引き継いだという事なのだろう。

 とりあえず首を捻るエリーに説明をし、これからの事を相談していく。


「ミスリルのインゴットを取るにはどうしたらいい? もしあるなら売って欲しいんだが」

「今は切れているな。欲しかったらこの近くにある鉱山から出ることもあるぞ。冒険者ならギルドに定期的に鉱山に出る魔物の討伐依頼があるから見てくるといい。そのついでにインゴットを取ってこれるだろう」

「インゴットを勝手に取っていいのか?」

「ああ。あそこは一般にも開放されているからな。まぁなぜかというと、大体が掘り尽くされてあまり残ってないからな。行きたいなら誰でも行っていいという事になっている」


 なるほどな。それは都合が良い。冒険者としての依頼もこなせ、そして少量だろうがミスリルが出るのか。ならこれからの方針は決まりだな。


「わかった。ありがとな爺さん。また来る」

「あいよ。いつでも来るがよい。今度は何か買っとくれよ」

「ああ、期待していると良い」


 エリーと共に装備店を離れ、また冒険者ギルドに戻ってきた。

 近くにあるという鉱山の依頼を受ける為だ。


「これではないでしょうか? 意外と距離がありますね……あのお爺さんの近くと私達の近くはちょっとズレているのかもしれません」

「……たしかにな。これは3日くらい掛かりそうじゃないか?」

「ええ。歩いて2日3日でしょうか。それとも馬車でもあるのでしょうか?」


 分からない事は考えても仕方ないので受付嬢に聞いてみることにした。

 そうするとこの依頼はFランクでは受けられないという。最低Dランクからの依頼ということだ。

 冒険者ランクはFから始まりE、D、C、B、A、Sの7段階になっている。

 さらに上があるらしいが一般的なのはこれだけだ。


 しかしエリーはB級の冒険者だ。俺が受けられなくてもエリー単独で受けられるので受ける事にした。

 俺は俺で近くの薬草などの草類の採取の依頼を受ける事にした。どうやら期限がないらしくこれが良いだろうとのこと。


 ちなみに鉱山の魔物退治の依頼も期限がないらしく、向こうにいるギルド職員の証明書があれば依頼達成ということのようだ。

 ならばさっそくミスリルを取りに鉱山へ行こうではないか。

 と思ったら馬車が明日の朝に出るのでそれまで待ったらどうかと受付嬢が言ってきた。なるほど、やはり馬車が出ているのか。ならあのドワーフがいう近くにという事はあながち間違いではなかったのだな。

 なら明日の朝まで待って馬車で行った方が徒歩で行くよりかは早く着くだろう。


 試した事は無いが徒歩よりも馬車の方が3倍ほど早いだろう。徒歩で3日なら馬車だと1日と少しで着くことになる。これは荷物を積んでいない事が前提になるが、ただの移動馬車という事なので運搬用ではないからそこそこ早く着くだろう。

 ならば今日はゆっくり休み明日に備える事にしよう。


「エリー。近くに良い宿はあるか? 警備がしっかりしている所が良い」

「そうですね…… ではこちらにあった気がします。付いて来てください」


 そこそこ良い宿で安全性の高い所が望ましいのでそこへ案内してもらう。

 案内してもらった宿は、中堅より上の冒険者がよく利用する宿のようで、警備がしっかりしており、何かが盗まれたり事件が起きたりといった事はあまりないようである。

 あまりないと言う事なので絶対ではないが、まぁそこそこ安全ならばいいだろうという事でそこに泊まる事にした。


「今日はもう休むか。明日はどのくらいで出ればいい?」

「そうですね…… 陽が上って少ししたらでいいのではないでしょうか」

「この世界は時間は正確には分からないのか?」

「全てではありませんがそこそこ正確な時間が定着しているみたいですよ」

「なら陽が昇る時間とは何時だ?」

「たしか6時前だったかと思います。なので7時前に馬車の所へ行けばよろしいかと」

「7時前だな。では寝るとしようか」


 意外にもしっかりと時間の概念があり正確な時間もあることが分かった。

 地球の時間とほぼ変わらず1月(ひとつき)が30日の12ヶ月で、1年360日という事だ。ならば今度からは何月何日の1時~24時の間での詳しい時間を使う事にした。

 という事でもう今日は寝るとしよう。明日はまた何かしら起こるだろう。

 だがそれも今では楽しみだ。また予想を上回る事を期待したい所だな。

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