彼女が僕を殺させてくれない

マシマシ太郎アンダーバー

アリス





 ここはとある高校の部室、オカルト研究部の一室。

 そこには黒髪短髪の少年がいた。



「ああ・・・・・・死にたい。」

 そんな言葉が口癖となっているのは僕。

 逆立さかだち 良太。自殺願望のある普通の高校生だ。



「先輩!そんなこと言ってたら良いことも逃げちゃいますよ?」

 そんな適当なことを言うのは後輩の沙良だ。



「そうだ!心霊スポットにいきましょうよ!」

「オカルト研究部なんですから!そんな死んだような目をしないで行きましょうよ!」


「死んだ目は元からだ。」


「それは失礼しました!厨二病の化身みたいな表情でしたのでつい心配で!」

 いらん心配をするのな。



「でも行きましょうよ!心霊スポット!」


「やだよ。僕そもそもそういうの嫌いだし。」


「じゃあなんでオカルト研究会に入ったんですか!!!」


「部長の棒立に土下座して頼まれたんだ」

「あいつには昔の恩があるから断れなかったんだ・・・・・・・。」


「優しいことは良いですよ?情けは人の為ならずとも言いますし」

「ということで今日の夜が暇すぎる私を助けると思って!」


「やだよ。女の子二人となんて浮気と思われちゃう。」


「なななんと!あのぱっとしないモテなさそうな先輩に彼女がいるんですか!?」


「超失礼だな。普通にいるよ。」


「なっ・・・・・・超ショックです・・・・・・」

「今度紹介してくださいよ。」


「うーん・・・・・・お前には会わせられないかな。」


「言っておきますがね!私は失礼なことなんてしませんからね!」


「いやそういうのじゃなくてだな・・・・・・アリスはここにいるんだ。」

 そう言ってスマホの乗っている机の上を指す。


「・・・・・・ああ。なるほどそういうことですか。」

 どうやら納得してくれたようだ。



「でもその彼女はリアルで色々とできませんよ!?」

 しかしこいつも中々に勘違いを起こすようなことを言ってくるな。

 小さい体に黒髪ポニーテイルが良く似合う。世間一般的に見れば美少女と言われる人間だ。


 そんな美少女が距離もソーシャルディスタンス何もない、まるで僕に好意を向けるかのような距離感で話しかけてくる。

 普通ならば惚れるだろう。


 だが僕には愛する人がいる。

 だから惚れない。本当だぞ?。



「いいんだよ。俺には愛するアリスがいるからな。」


「まあ良いです。それで心霊スポットに行きませんか?」


「嫌だし何で急に言い出したんだよ。」


「それがですね!これを見たんですよ。」

 そう言って彼女が取りだしたのはオカルト関係の本だ。



「ここに書いてある心霊スポット特集を見たんですよ!近くに二つあるんですけどね?近い方に行きたいと思いまして!!」


「俺霊感無い方だけどさ。そういうところに行くの嫌なんだよ。」


「そんなこと言わないでくださいよ!」

「そもそも私結構霊感ある方なんですけど、そんな危ないことなんて一切起こっていないですよ?」


「それは運が良かっただけだろ・・・・・・。」

 成功体験だけを見て爆走暴走するタイプの人間か。


 別に恋愛対象になったというわけでは無いが、こういうタイプを見て見ぬ振りをして不幸な目に会ったら目覚めが悪くなる。



「いやー!心霊スポットって心躍りますよね!」

「カップルが行方不明になって夜な夜な現れるという病院。留学生の少女が失踪し、そのまま地縛霊となり肝試しに来た少年少女を恨みから襲うという墓場。バイクの衝突事故で上半身だけになった男が夜な夜な出てくるトンネル・・・・・・どれをとってもワクワクが止まりません!」

 中々に不謹慎なことでワクワクしているなお前。

 嘘が混ざってるし、こんな奴を放置して大事件になっても大変だ。



「倫理観大丈夫かよ・・・・・・。」


「こんなの嘘に決まってるじゃないですか!」

「だからこそワクワクできるんですよ!」


「そんなことでワクワクできるなんて羨ましい人間だ」

「俺なんてただ生きているだけで死にたくなってくるのに。」

 そんなことを言っていたら死にたくなってきた。



「外で死んでくるわ。」


「えー!ちょっと死なないでくださいよー!!!」

 死なないでってのは呪いの言葉だ。

 死にたいのに死なせてくれない。何で君は楽にさせてくれないんだ。


「無茶を言うな。俺は死にたくて死にたくて仕方ないんだ。」


「でも正直自殺する気とか無いですよね?」

「だって首を斬ろうとしてもいっつも外してるじゃないですか。」


「これマジで無理だからな!?」

「てか俺に死んでほしいなら沙良が殺してくれ。ナイフなら渡すから。」


「嫌ですよ。私殺人鬼になんてなりたくないですし」

「先輩には死んでほしくないですからね。」


「オラァ!」

 そう叫びナイフで首を斬ろうとする。

 しかし手が勝手に動き首から外れたルートへと進む。 


「急に首を斬ろうとしないでくださいよ!!!」

 

「また死ねなかった・・・・・・。」


「ていうかそれ銃刀法違反ですよ?」

「通報されたくなければ私と夜の肝試しと行きましょう!」


「肝試しは夜だけだろ・・・・・・。」


「まあいいです。じゃあ後でlineで集合場所と集合時間を伝えておきますね!」

 そう言って沙良は帰ろうとする。

 どうしてお前はそんなに元気でいられるのか。正直羨ましい。



「てか行くとは言っていないぞ。」


「もし来なかったら私が暗闇の中待ちぼうけになって、もしかしたら悪い大人たちに襲われるかもしれませんよ?」





 集合場所は歩いて10分ほどの場所に肝試しスポットのあるコンビニの前だった。



「やっぱり先輩は優しいですね!」

 部室で会うよりテンションが高い。

 どうやら肝試しが凄く楽しみなようだ。


「無茶を言うな。あの状態で無視できるほど俺は心まで死んではいない。」

 女と二人で肝試しなんて・・・・・・実質デートじゃない?

 いや違う違う。これはこいつが心配なだけだ。

 

 肝試しは嫌いだ。

 けれどいつもより君が元気が良いことを考えたら、肝試しに行くのもありかと思う。



「お。姉ちゃん可愛いねぇ。」

 目を離していると沙良が不良に絡まれている。

 しかし今の時代にそんなこてこてのナンパをする人がいるんだね



「ごめんなさい・・・・・・私恋人と来ていますので。」

 恋人なの?

 不良に絡まれているからな。恐らくはそれから逃げるための策なんだろう。



「そういうわけだから。じゃあ行こうか。」

 そう言って沙良を手を持ちさっさと心霊スポットへ行こうとする。



「そうはいかんだろ。彼氏クン?」

 しかし不良は許してくれなく、俺の胸倉を掴む。


 どうする?殺そうかな?

 殺すなんて思考は良くない。まるで厨二病だ。



 ここは大人しく殴られるべきだろう。

 不良程度のパンチじゃ大したダメージにならないしな。

 沙良に暴行を加えようとするならばナイフなりで脅せばよい。





 10分ほど殴られ続けたが、どうやら不良は飽きたのか何かを感じたのか沙良に手を出さずにどこかに消えていった。



「せ・・・・・・先輩!大丈夫ですか!?」


「別に何ともないさ。あの程度の攻撃なら対応できたし。」


「た・・・・・・確かに。あれだけ殴られてたの傷が無い!なんで!?」


「昔色々と格闘技を学んでね」

「素人のパンチぐらいなら大したダメージにはならないよ。」


「なら殴ってやればよかったじゃないですか!!!」


「調整が難しいんだ。調整を間違えたら沙良の方に報復が来るかもしれなくて怖いしね?」

 

「流石先輩です・・・・・・けど、私のためにそんなに体を張らなくても。」


「だからダメージなんて無いから気にしないでくれ」

「ちょっと心霊スポットにも興味が湧いてきたんだ。嫌いだけど行きたいから案内を頼むよ。」


「嫌いだけど行きたいって、分かりますけども不思議な心理ですね」

「では案内させていただきます!彼女の名に賭けて!」


「あれは不良を相手した時に出たとっさの嘘だよ。本気にしないでくれ僕が殺される。」


「まあ確か・・・・・・きゃっ!」

 直後周りの電気が消えた。



「停電・・・・・・かな?」

 電柱からもコンビニからも明かりが消え、周りが真っ暗へとなった。



「せせせせせせ先輩・・・・・・。」


「どうした?大丈夫か?」

 沙良が凄く震えて蹲る。

 よくわからないが何かあったのか?。



「逃げてください!ここにいたらまずいです!!」

 確かに。物凄い霊がいるね

 って普通にやばくないか!?。


 そんなやり取りをした直後、横から殴られた。

 沙良を守るために盾となった。

 

 しかし殴られたなんてレベルじゃない。まるで大型トラックがアクセル全開で突っ込んできた。

 それぐらいの衝撃で飛ばされた。



「先輩・・・・・・ねえ?嘘でしょ・・・・・・ねえ?ねえ!?」

「あああ・・・・・・あんなのに殴られたら・・・・・・。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私がこんなところに連れてきたばかりに・・・・・・。」

 もしかしたら彼女は僕が死んだと勘違いしているのか?。

 僕が死ねた時に悲しんでくれる人がいるってのが分かったのは凄くうれしいな。


 浮気?

 だから言ってるだろ。浮気なんかじゃないって。


 じゃあ何でこの人を庇ったの?

 後輩が目の前で殺されるなんて嫌だろ普通。


 私に後輩なんていなかったし、できる前に死んじゃったし

 そうだな。今のは失言だったよ。



「え・・・・・・先輩・・・・・・。」

 じゃあとりあえずアイツ殺す?

 物騒だけど仕方ないか。よろしく頼む。



「なんですか・・・・・・その後ろの化物は。」


「アリスが見えるのか・・・・・・極限状態によって霊感が強くなったのかな。」


「ア・・・・・・アリスちゃんって言うんですか?」


「ああそうだ。僕の恋人だ。よろしく頼む。」


「よ・・・・・・よろしくお願いします。」

 じゃあアリス。僕には分からないんだけどアイツを倒してくれないか。

 分かったけど・・・・・・その分帰ったら褒めてよね

 

 帰ったらいつも寝てるじゃないか。

 じゃあ後ででいいからここで褒めてよ!ここなら凄い調子がいいんだから!


 そう言ってアリスが突撃していく。

 よくわからないが、恐らく悪霊と戦っているのだろう。



「どう?霊が片方消えた?」


「あ・・・・・・はい。消えましたね。」


「じゃあ問題は無いな。僕たちはもうちょっとここにいるつもりだけど沙良はどうする?」


「え・・・・・・はい。すみませんけど先に帰らせてもらいますね。」

 そう言って沙良は帰っていった。

 一人で帰って大丈夫かと思ったが、そのことを言う暇もなくそそくさと帰っていった。



 しかし落ち着いて周りを見て見るとここは墓地だ。

 恐らくはアリスが退治した悪霊の力によって、ここをコンビニの前と錯覚させられていたのだろう。


 もしかしたらコテコテの不良は、ここの悪霊によって殺された霊かもれない。

 俺たちを逃がそうとしてくれたのかもしれないが、事実は分からない。


 まあその辺は僕には分からない。霊感が全くないから。

 唯一感じる霊はアリス。僕の守護霊だけだ。


 僕通っていた中学校に留学してきた白人の少女であり、友達と言った肝試しの時に悪霊に襲われて殺された。

 そしてその霊を逆に喰うことで力を得た少女。

 

 しかしその存在は曖昧となり、今や俺の守護霊としてつかなければ悪霊になってしまう。



 僕は彼女が好きだった。

 初めての恋だった。だから彼女が目の前で食われ死に行く様を見たときは辛かった。


 だから僕は自殺を試した。

 アリスのいないこんな世の中に生きていても意味が無いから。


 けれど上手くいかなかった。彼女が守ってくれたからだ。

 だから僕は死ねない。彼女が僕を死なせてくれない。



 けれど、これがアリス本人じゃないとしても。

 偽物と分かっていても。

 俺の愛したアリスがここにいる。その幻想だけで俺はこれからも生きていけるだろう。


 本物のアリスがいないこんな世界でも。

 君がいるから、僕は死ぬことができないんだ。



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彼女が僕を殺させてくれない マシマシ太郎アンダーバー @Moshi_Tarou1

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