第4話



 明りの丸みが動くのは、月が増えた証拠だった。眩暈に苦い光を当てた電灯は、落ちるとも消えるともせずに泳いでいて、気が付くと何かを食べて元に戻る。繰り返される夜の部屋では、寂しい無音が鏡に翻訳されていた。静かな木箱の底が、コンクリートで造られていることを明りは知っていて、片隅の洋書に淡いしぶきをかけている。骨に近い装丁の英辞書が、孤島の果てへ流れて行く。その反対に座る私の姿が、蜃気楼へ酸を混ぜた気持ちで映るのは、動いた肉を胃が消せないから。優しいだけの感情で、きっと痩せた肉を満たしている。わたしは、離さず古典を抱いて迷っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る