第3話


 ガラス張りに昔を懐かしむ。羽が、そうあるべきと伝えていた夏の夜道で、傾いた天秤を描いて見せたあの虫は、昼の引き戸に落ちている。水槽に浸された心の大きさに、身体が丈夫と知った物語が、なおのこと外へと向けられる日々の落ち着き。その虫は、埃に沁みて消えていった。どんなに記憶の海を抱いても、深い色合いは気温に散って明るくなる。鋭利な砂を湿らせる手、押し込めた貝殻を擦りつぶす足、また砂を産むこともできないで、吐息が静かな午後の廊下は、冷たいオブジェに成りかけている。めくる紙と揺れた空気で結ぶ余白の怖さに、逃げ出したくなる自分を忘れて。

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