ショートショート 教頭と国語教師
教頭はいつも腰ぎんちゃくの国語教師を連れて学校で偉そうにしていた。
だがいつも「はい教頭」「ええ教頭」「おっしゃるとおりです教頭」と、頭をヘコヘコ揉み手をスリスリしながらなんでもはいはい言うだけの国語教師に、教頭も少々飽きていた。
そこで教頭は国語教師に「君はいつも私の意見に賛成してばかりだ。たまには私に逆らってみてはどうだね」と退屈しのぎのつもりで言った。
国語教師は「ええ、はい、教頭……え……いえ、いや、その、教頭」と口ごもる。
「どうした。私の言うことに逆らうのかね。ん、いや、たしかに逆らえとは言ったが、逆らえと言ったことには逆らわなくていいんだ。逆らわずに逆らうんだよ、君、わかるかね?」
「逆ら、逆らわずに、え? 逆らう? え? え? 教頭?」
「ええい物分りのわるい男だね君は」
「いや、その、教頭」
「なんだね」
「そもそもただ逆らえと言われても、具体的に何に逆らえばよいのでしょうか……」
「そんなこともわからないのかね君は。つくづくどうしようもないな君は」
「すみません、教頭」
「例えば私が職員会議で発言をしたときだ。私が前もって入念に準備した内容の発言をしてもだな、誰も彼もがまるで聞いておらん。けしからん。そんなとき、君はいつもどうしてる」
「いつも教頭のご高説を拝聴するたび、ええ、ええ、そのとおりです、と相槌を打っております」
「そうだろうそうだろう。だがそこでだよ、君。その君はそこで私の意見に逆らってみろ、どうなると思う」
「え? そんなことはありえません。私が教頭に逆らうなどと」
「だから私の指示だと言っておるだろうが。ともかく君が私に逆らう。するとどうだ。君でさえ驚くことだ。ほかのものからすれば、その光景を目にしてビックリ仰天、いつも私の発言を聞き流していたものたちも、たちまち私と君のやりとりに注意を向けるはずだ」
「なるほど! ええ、ええ、そのとおりですとも、教頭!」
「うん、まあ、そうなんだが……大丈夫かね、君」
「え、ああ、ええ! 大丈夫です! 教頭のご指示とあらば、それはもう逆らってみせますとも」
「そうかね、期待しているからね」
「はい、教頭」
「うん、やはり君はものわかりがいいね」
「もちろんですとも。教頭あっても私ですから。おまかせください」
そうして二人のやりとりは終わった。
退屈から変化を求めてみても、そうそう人間同士の関係はかんたんには変わらない。
というようなワンシーン、のようなそうでないような。
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