第28話 期待
人狼国に帰ってきてすぐ、僕はみんなに迎えられて、持って帰ってきた心臓の提示を求められたけれど、一刻も早く、それをムールイさんに見せたかった僕は、小柄なのを活かして、みんなの間をすり抜け、着替えもしないで、その場にいなかったムールイさんの家へと走った。
「おい! ガムーシュイ! 心臓を見せろよっ!!」
「すみません!! また、あとで見せますーー!!」
ムールイさん、ムールイさん! ムールイさん!!
僕は期待していた。テルイを殺したあいつの、あいつの心臓を持って帰ってきたからそれで、テルイの仇を取ったから、きっと、きっとムールイさんは喜んでくれるって! 僕は、早く、早く、ムールイさんに見せたくて、加速した。
「ムールイさん!」
「ガム―シュイ! 血だらけじゃないか!」
「すみません、そのまま来たもので」
「とりあえず、無事で良かったよ。戦略通り、小さい子供を襲ってきたか?」
「……」
「どうした……?」
「……ごめんなさい、ムールイさん」
「……?」
「……これ」
僕は、あいつの背中を貫いた時から持っていた、あいつの心臓をムールイさんに見せた。
「こ、これは、子供の心臓の大きさではないが……?」
「あいつのです、テルイの命を奪った」
「っっ!!」
僕の期待は、確信に変わりつつあった、そのはずなのに……。
「うぅ……う、うぅ……」
「ムールイさん!?!?」
ムールイさんは、突然泣き出した、それも子供のように。
「ごめん……ごめんな……」
「ムールイさ……」
僕は、ムールイさんに抱きしめられた。
「ごめんな……子供の、君に、こんなことをさせてしまって……本当にごめんな……」
「……っ」
僕の中は、複雑な気持ちでグルグルしていた。僕は確かに、「ムールイさんが喜ぶ未来」が見えていたのに、そのはずなのに。こんなこと、予期していなかったのに。
あいつの血の匂いが、僕の鼻を刺して、僕はただ、ムールイさんの涙で、僕の肩が濡れていくのを、感じていたのだった。
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