第21話 引き換えの【真の人狼】

悲しみに暮れていた時間は、すぐに終わりを迎えた。


「こっちにいたぞーーー!!!!」


軍が来たのだ。俺は心臓が潰れないように端に寄せ、テルイをかばんにそっと入れると、その場を後にした。そして、時間ギリギリにはしごを上って人狼国に帰ったのだった。



人狼国に帰ってきて早々、俺は住民に群がられた。


「ムールイ!! 無事で良かった!!」

「おかえり!!」


俺は、かばんを前で持って、ふたでテルイが見えないように隠しながら、かばんから心臓の入った袋を取り出して渡した。その人が袋の中から心臓を取り出して高く掲げると、たちまち歓声が上がった。


「お前は俺たちの誇りだ!!」


みんなの満面の笑みに、俺は繕いまくった笑顔で返すことしかできなかった。あんなにも歓声が上がっていたのは、人狼国が負け続けていたからだ。俺は、【真の人狼】となって人々からそう呼ばれるようになり、必然的に人狼国のリーダーになった。だが、それらはすべて、テルイの命との引き換えと天罰に思えて、俺の顔からは次第に笑顔が消えていったのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る