第12話 無慈悲

唖然とするあまり、トポルガンは軍に連絡するのを忘れてしまっていた。人狼はこちらを向いた。やはり、その人狼は子供だった。


「ぼ、僕、大砲とか武器とかそ、そういうのに興味があって、それで……」


人狼は大粒の涙を流していた。だが、それは、トポルガンには何も効果がなかった。トポルガンはそれを見ても、何も感じなかったからだ。


カチャ


トポルガンは銃のスライドを引いて人狼に向かって真っすぐ構えた。


「ひぇっ!」


ブルブルと震える足に力を入れて、体勢をグラつかせながらも逃げ出した人狼をトポルガンは追った。


「あっ……」


逃げた先に壁が立ちはだかって、人狼は体の向きを変えて再度逃げ出そうとした。だが、トポルガンが距離を詰めて銃口を向けたので、人狼は頭を抱えるしかなかった。人狼はこちらを見ている。トポルガンは引き金に指をかけた。


「これで、終わ……」

「ほんと残酷だよね」

「……?」


人狼は袖で涙を拭いて顔を背けてからトポルガンの言葉を遮るようにして、言葉を発した。


「僕は、今回の人狼に選ばれた……けど、人の殺し方なんて知らないし、殺せない……。ルールもよく知らないのに人間国ここに来させられて……。大砲が好きで彷徨ってたら見つけて……そしたら僕は銃口を向けられているよ……」

「……」

「僕のこと、殺すの? 殺せるの……? 僕、誰も殺してないよ……悪いことしてないよ……?」


人狼は潤んだ目でトポルガンを真っすぐ見つめた。だが、トポルガンは、もう一方の手を銃にそえた。そして、引き金を引いた。

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