第227話 取り逃がした結果……

「消えたッ!?」


 フェリロスは少年の捕捉ができなくなったことに驚く。


「まさか、気づかれた?」


 フェリロスは少年の行動から自分の能力が露呈したと悟った。


(気づくきっかけはあの発火よね……)


 あの時は上半身と足を狙った。


 上半身は囮。


 しかし、その囮の矢と剣がぶつかったときの火花で地面にこぼれていた液体――おそらく酒に引火した。


 引火した炎が琉海の体温と重なって輪郭をぼやけさせた。


 こうなると推測で足を狙わざるをえなかった。


 結局は当てが外れて相手に好機を与えてしまった。


 そこからの少年の動きは鮮やかだった。


 完全に試されていた。


「あれだけの情報で看破されるなんて」


 フェリロスは弓を下ろした。


 もう、能力がバレてしまったら、捕捉する隙は与えてくれないだろう。


(それにしても、ここまで強い人間が帝都に入り込んでいるなんて……)


「どこの勢力が送り込んできたのか調査は必要かもしれないわね」


 フェリロスはそう呟いて屋根の上から飛び降りた。


 フェリロスが着地するとグライハルトが近づいてくる。


「やったのか!」


 フェリロスが倒してくれたと期待しているのだろう。


「逃げられたわ」


 フェリロスは取り繕うことはしなかった。


 すると――


「はあ? 逃げられただと! あの〝弓帝〟が取り逃がしたというのか! 使えねえな! なんのためにお前たちはいるんだよ!」


 グライハルトは言いたい放題だった。


 フェリロスは言い訳をしなかったが――


「では、あなたのいう〝弓帝〟が撮り逃がしてしまうほどの相手に喧嘩を売って、心象を悪くさせたあなたたちの事情聴取を徹底的にやらせてもらうわ」


 フェリロスは付いてきなさいと言って〝弓帝〟の兵舎へ向かう。


 フェリロスに罵倒を浴びせることができても、逆らうことはできない。


 力勝負になればフェリロスのほうが上だからだ。


 グライハルトは苦虫を嚙み潰したような表情をしつつも、フェリロスに従った。


 その後をボレガスが追従する。


 その後、フェリロスの〝弓帝〟部隊が安宿の周りを巡回し、大量の死体が発見された。


 これらの死体はグライハルトが雇った傭兵であることは、フェリロスの証言で明らかとなった。


 この事件は帝都の貴族をざわつかせた。


 いままでハイルマン公爵によって握り潰されていたからだ。


 だが、フェリロスはそれを許さなかった。


 すぐに報告し、白日の下に晒した。

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