第217話 〝剣帝〟の動向

 現在、エリたち――〝剣帝〟の部隊は帝都の近くの町で休憩をしていた。


 馬の消耗も考え、行きよりは速度を抑えて帝都までの道程を進んでいた。


 あと2日で帝都に帰還できるだろう。


 宿でエリとスレイカも体を休ませていると――


「大変です!」


 〝剣帝〟の部隊員の一人が滞在している部屋に入ってきた。


「どうしたのですか?」


 スレイカが何事だと聞く。


 駆け込んできた部隊員は深く息を吐いて落ち着かせる。


 そして、ひと息に報告した。


「ルデアが占拠されたみたいです!」


「「えっ!?」」


 エリとスレイカの声が揃う。


「それは本当なの?」


「はい。帝都からの早馬による情報みたいなので、かなり信憑性が高そうです」


 帝都の早馬は〝帝天十傑〟の部隊が装備している魔道具よりも性能の高い特製の魔道具を装備させている。


 帝都からここまでエリたちが2日かかるような距離でも、帝都専用の特性魔法具を装備させた早馬ならここまで伝達できるだろう。


 そこからの情報なら信憑性は高そうだ。


「ルデアは要衝の地。あそこを占拠されると帝都周辺の町や村の機能がなくなる。帝都は大騒ぎになっていそうね」


 エリも中央貴族たちと同じ思考に行き着く。


「帝都の今後の動きなどの情報はないのですか?」


 スレイカが報告してきた部下に聞く。


「中央貴族たちが兵の招集を行っているみたいです。明日にはルデアに兵を向けるようです」


 ルデアが占拠された状態だと、物流が滞って物価の高騰で民衆が貧しくなるのは目に見えている。


 即座に対応しないと帝都周辺で商いをしている商人たちも減るだろう。


 すぐにでも奪還したいと中央貴族が考えるのはエリでもわかった。


(それでも、数日は準備にかかると思うけど……)


「対応が早いわね」


「〝斧帝〟がルデア奪還に参戦するみたいです」


「〝斧帝〟がッ!?」


 スレイカが驚きを露わにした。


 エリも驚いていたが、それよりも中央貴族が何を考えているのか疑問の方が大きかった。


 〝斧帝〟アレーグ・ヴァルムは〝帝天十傑〟の中でも戦闘狂である。


 殺すこと。


 壊すこと。


 これらにしか興味のないような男だ。


 そんな男を重要拠点の奪還に選抜した。


 奪還するはずのルデアを破壊しかねないのに。


「たしか、帝都にはフェリロスがいたはずだけど……」


 ルデアを占拠している反乱軍だけを穏便に制圧するなら〝弓帝〟であるフェリロスの方が適任のはず。


(中央貴族の連中は扱いやすいほうを選んだのでしょうね)


「すでに部隊が準備しているのでしたら、安心でしょうか?」


「どうでしょうね。暴走しなければいいけど」


 〝斧帝〟が暴走して占領するはずだった町をめちゃくちゃにして使い物にならなくしたことは有名な話だ。


 中央貴族もその事は知っているはずなのだが、〝弓帝〟よりかは扱いやすいという判断なのだろう。


 そうなると、暴走したときに止める人間がいないということになる。


「私たちもルデアに向かったほうがいいかもしれないわね」


「ここからですと、帝都から出発する部隊がルデアに到着するまでに間に合わないかと思いますが……」


 ここから帝都までは2日。


 ここからルデアまでなら1日半ぐらい。


 帝都の部隊は明日に出発し、大人数での行軍でも1日で到着するだろう。


 これでは、1日半かかる〝剣帝〟の部隊は半日遅れで到着することになる。


「そうね。だから、私が先行して行けばいい」


 〝帝天十傑〟の馬にだけは帝都が保有する早馬と同等の魔道具を装備している。


 これは有事の際にすぐ戦場へ向かえるためだ。


「またですか……」


「でも、他にこれ以上の良案がある?」


「…………」


 スレイカもこれがベストであることを理解している。


 こうなると、エリはどれだけ言っても意見を変えないことも知っている。


 スレイカはため息を吐いた。


「仕方ありませんね。ですが、くれぐれも無茶はしないでくださいね」


 下手すると〝斧帝〟と一戦交えるかもしれないことを懸念しているのだろう。


「大丈夫よ。無茶はしないから」


 エリはそう言うと、報告してきた兵士に視線を向ける。


「全員に通達。私は今日、ここを発つ。皆は明日にルデアに向かえるように準備を進めるように」


「了解しました」


 スレイカと情報を報告しにきた部下は頷き、部隊員に伝達するために部屋を出ていった。


 この後、〝剣帝〟のエリ・ルブランシュは単独で先行してルデアに向かった。

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