第216話 剣帝の捜索劇

 10日前に帝都を出発した〝剣帝〟のエリ・ルブランシュは、帽子屋の情報を元にアルバート ・ホーマン子爵の領地に5日間かけて向かっていた。


 部隊員の馬、全頭に複数の魔道具を装備させての全力疾走。


 普通なら10日かかる道程を5日間に縮めた。


 ホーマン子爵領の町に到着してすぐにホーマン子爵から了承を得て、捜索を行った。


 帽子屋の情報ではあの暴動は計画されていたものだったとのことだ。


 これはエリも想定していたことだから驚きはなかった。


 しかし、帽子屋の情報には暴動の首謀者候補の名前も記されていた。


 レオンス ・クレイダーマン。


 ギード ・フランク。


 この2名のどちらかが暴動の首謀者である可能性が高いとのことだった。


 その後に記載されている内容はその2人がリーダーである可能性の裏付けとしての証拠だった。


 どこで何を購入したとか、どこの店に出入りをしていたなど、情報がつらつらと書かれていた。


 そして、最後の極めつけはデルクライル子爵の町の貧民街にいたところを発見されているとのことだった。


 暴動後のデルクライル子爵の貧民街はもぬけの殻だ。


 暴動者として脱出したのだろう。


 貧民街にいたということは少なくともあの暴動者の一味だろう。


 逃走した暴動者はホーマン子爵の町に潜伏しているとのことだった。


 似顔絵も送付されていた。


 場所と顔がわかれば探し出すのも難しくない。


 ホーマン子爵に承諾を貰って〝剣帝〟の部隊総出で町内を探し回った。


 捜索中に逃げられないように門前で町への出入りを監視しつつ、町中を虱潰しに確認した。


 しかし、似顔絵と同じ顔を見つけることはできなかった。


 2日間かけての捜索は収穫なし。


「どうしますか?」


 スレイカがエリに確認する。


「見つからなかったということは、私たちが来る前にこの町を離れたということでしょう。私たちも最速でここに向かってきたけど、すでにいないとなると、何かの計画があったのかしら? デルクライル子爵領で私たちと遭遇したのは予想外だったはずだから、帽子屋の予想では、しばらくはこの町に潜伏しているだろうってことだったけど……」


 エリは顔を伏せた状態で自問自答する。


 帽子屋の情報も百発百中というわけではない。


 今回は想定外だったということだろうか。


「これだけ早く移動できるとなると、デルクライル子爵の町から逃走した後にも計画があったということになるわね」


 目的はデルクライル子爵領の貧民街の人々を解放することではなかったのだろう。


 エリは思考の整理が完了できると顔を上げた。


「一旦、帝都に戻る。準備させて」


「わかりました」


 スレイカはそう言って〝剣帝〟の部隊員に伝えに行った。


 こうして収穫のなかった〝剣帝〟の部隊は帝都に戻ることになった。


 そんな〝剣帝〟が離れていく姿を屋敷の執務室から眺めていた。


 ホーマン子爵の机の上には皇帝の印籠が押された友からの手紙があった。


「頼みは聞いたぞ。なんとか2日は稼いだ。後はそちらでなんとかしろ」


 誰がいるわけでもなく、独り言を話すホーマン子爵。

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