第210話 中央貴族の会議

 帝都の中央にある皇城のとある一室。


 そこには、中央貴族と呼ばれるルダマン帝国のまつりごとに関わる貴族たちが集まっていた。


 この場では東西南北全土に広がるルダマン帝国の経済状況などの報告内容を確認していく。


 彼らが一番気にしているのは税金がどれだけ中央貴族の元に集まるかにしか興味がない。


 そんな会議で自分たちの取り分を話し合っているときに突然扉が開かれた。


 入ってきたのは一人の男――帝都の衛兵の一人だろう。


 彼は息を切らしていた。


「会議中だぞ!」


 中央貴族の一人が入ってきた男を窘める。


「か、会議中に申し訳ございません!」


 しかし、男にはそれどころではないようだった。


「る、ルデアの町が――占拠されました!」


「な、なにっ!?」


 彼の報告に中央貴族全員が狼狽した。


「ど、どういうことだ!」


「何が起きた!?」


 報告の内容が頭の中で整理できても彼らの動揺は収まらなかった。


 そんな中、中央貴族を統率している中年の男――ゲアハルト・ハイルマン公爵が口を開いた。


「詳細を教えろ」


 そして、中央貴族たちも彼の言葉で落ち着きを取り戻す。


 情報を持ってきた衛兵から説明を聞き終え、部屋から退出させた。


 そして、室内に残った中央貴族たちのいる一室を沈黙が支配する。


「これはまずいですぞ」


「ええ、ルデアは帝都との流通を繋ぐ生命線です。そこを占拠されたとなると……」


 物資などの中間地点を担うルデアが占拠されたことで帝都へ物資が届きにくくなる。


 それもルデアに大手の商会があるせいでもある。


 ルデアの占拠が長引けば長引くほど食料などの流通が滞る。


 そして、この情報が既に帝都中に広まっていることも面倒なことのひとつだった。


 衛兵からの情報によると、衛兵が知ったころにはすでに帝都中に広まっていたようだ。


 民衆が知らなければ、交渉を持ち掛けて取り返すことも考えていた。


 しかし、それでは権威を示すことはできない。


「兵を徴集する必要がありますね。ハイルマン公」


「ああ、兵を集めるように伝えろ。皇帝には私から報告しておこう」


 ルデアが占拠することができる印象を与えるわけにはいかない。


 同じことが起きないように武を示す必要があった。


「今、帝都にいる〝帝天十傑〟は誰だ?」


「まさか〝帝天十傑〟を投入するのですか?」


「失敗は許されない。奪還の確実性を上げるなら、〝帝天十傑〟が必要だ」


 ハイルマン公爵の言葉に中央貴族たちは同意した。


 自分たちが侮られることがどれだけの損失になるか頭の中で計算したのだろう。


 ここにいる者たちは皆自分のことを第一に考えるような者たちだ。


「たしか現在、帝都に残っている〝帝天十傑〟は〝弓帝〟だったでしょうか」


「一昨日、〝斧帝ふてい〟が帰ってきていたはずです」


「なら、〝斧帝〟をルデアに向かわせろ。〝弓帝〟よりかは扱いやすい」


 〝斧帝〟は戦いを好む戦闘狂だ。


 今回のルデアの解放作戦にはちょうど良かった。


 ハイルマン公爵の決定に誰も口は挟まない。


 この場にいる中央貴族全員が同意を示す。


「帝都から兵を出しますと、ここが手薄になりかねませんな。もし、ここを襲撃することが目的だった場合は、致命的です」


「ならば、〝弓帝〟と収監所にいる兵を半数こちらに戻すようにしよう」


「そ、それは……」


「さすがに……」


 ハイルマン公爵の言葉に他の貴族たちは目を逸らす。


 その理由をハイルマン公爵は理解していた。


 収監所についてはすべてルダマン帝国の参謀であるジャック・バトラーが管理している。


 ここにいる者たちはジャック・バトラーの助力によってこの地位に立てたと言っても過言ではなかった。


 できるだけ、ジャック・バトラーに貸しを作るのは避けたいのだろう。


 引き換えに何を要求さえるかわからないからだ。


「バトラー殿には私から頼もうと思う」


 ハイルマン公爵からそう言われると貴族たちは安堵のため息を吐く。


 誰が頼みに行くかという話になる前にハイルマン公爵が名乗り出たことでこの場の緊張は弛緩した。


「兵の招集は任せる。明日の早朝にはルデアに迎えるように調整しろ」


 ハイルマン公爵はそう言い残して、その場を離れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る