第205話 様々な思惑と覚悟

 琉海たちが作戦会議をした夜。


 琉海たちが滞在する町の領主――アルバート ・ホーマン子爵が執務室の扉を開いた。


「……ん?」


 アルバートは何かの気配に気づいて視線を窓際に向ける。


 すると、布で顔を隠した女の姿が現れた。


「誰だね?」


 アルバートは動揺を表に出さず、堂々とした姿勢で聞く。


 暗殺者なら即対応できるように懐の魔道具にも手を伸ばしておく。


「私は〝暗帝〟の部下。こちらをあなたに渡すようにと言われ預かってきました」


 覆面の女はアルバートの執務机の上に封書を置く。


「〝暗帝〟からだと……」


 暗殺者ではないことがわかると、アルバートの緊張は弛緩した。


 アルバートはその封書を確認するために執務机に近づき、一通の封書を手にした。


 その封書にはルダマン帝国の紋章が刻まれた封蝋で封がされていた。


「はっ…………!?」


 この紋章を使えるのは皇帝のみ。


 つまり、これはルジアス皇帝からの手紙だ。


「たしかに渡した」


 覆面の女はそう言い残して窓から飛び降り、闇夜に姿を消した。


 アルバートは椅子に腰を下ろし、何が書かれているのか想像しながら、手紙を見つめる。


 そして、意を決してルジアス皇帝からの手紙の封を開けた。


 そこには、さまざまなことが書かれていた。


 アルバートは一通り読み終えると瞼を閉じる。


 アルバートは皇帝のルジアス・ルダマンとは幼馴染であり、親友だった。


 一時期は中央貴族として支えていたが、ある時期から皇帝は変わり、周りの貴族も変わっていった。


 ずっと、心配していたがこの一通でアルバートはすべてを知った。


 現状のルダマン帝国の状態。


 反乱の火種がなくならない理由。


 中央貴族の歪さ。


 元中央貴族だった優秀な貴族たちが思っている違和感についてすべてが書かれていた。


「覚悟を決めたということか……」


 手紙からは覚悟が伝わってきていた。


 そして、最後の文をもう一度読み直し、読み終えた手紙を懐に入れて立ち上がる。


 執務室を後にするアルバートの表情も何かを覚悟したようだった。


「古き友の頼みだ。引き受けよう」


 アルバートはそう呟いて足早に歩き出す。

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