第206話 優秀な情報屋
翌日。
帝都では〝剣帝〟のエリ・ルブランシュが出立の準備をしていた。
エリの部屋にいるのは〝剣帝〟の部隊の副隊長を担うスレイカ・シブラウスだけだった。
この部屋は副官のスレイカしか入室を許可されていないためである。
「エリ様、帝都を出るのはいいのですが、これからどこへ向かうのでしょうか?」
スレイカの疑問ももっともだろう。
暴動者たちの逃亡先がわからないのだから。
逃亡先がわかっていれば帝都に向かわず、暴動者たちを追っていただろう。
「そうね。そろそろ、来てもいいんだけどね」
「ん? 何がですか?」
「情報よ。私が暴動者たちを逃した町からあなたたちを追っている途中で立ち寄った町で情報屋に頼んでおいたのよ」
「情報屋ですか。誰に頼んだんですか?」
スレイカには何人か思い浮かんでいるようだ。
〝帝天十傑〟の部隊には人数制限が存在する。
しかし、情報屋などの戦闘時や行軍時に同行する必要のない戦力は部隊の人数には換算せず、必要な時に雇う契約をしている。
彼らは〝剣帝〟の部隊所属に数えられていない。
だから、部下というわけではない。
しかし、報酬が高いため優先してやってくれる。
今回、依頼した情報屋も〝剣帝〟と契約している情報屋だ。
「帽子屋よ」
「帽子屋に頼んだんですか!?」
帽子屋。
彼は不定期に様々な町で露店を出して帽子を売りながら、情報屋をしている。
情報網が広く正確な情報を教えてくれる優秀な情報屋だが、報酬は割高だ。
「でも、早く情報が欲しかったから、しょうがないわ。必要経費よ」
「はあ……」
スレイカがため息を吐いた。
すると、「ピーー、ピーー」という鳴き声が聞こえてくる。
「ん?」
スレイカが窓を開けると、一羽の鳥が兵舎の上空を旋回していた。
窓が開くのを待っていたのか、スレイカが開けた窓から室内へ入ってくる鳥。
鳥はエリの腕に止まって片足を挙げた。
そこには筒紙を仕舞えるような筒が結ばれていた。
エリは慣れた手つきで鳥の筒から筒紙を取り出す。
鳥はすぐにエリの腕から飛び降り、窓から空へ飛び立った。
「帽子屋からですか?」
「ええ、そうみたいね」
エリはその紙を流し読みしていく。
その情報には逃げた先の町が記載されていた。
「さすがね」
さらにこれからの動向予想まで記載されている。
「目的地は決まったわ」
エリはスレイカに行先を伝える。
「わかりました。皆にも伝えてきます」
スレイカはエリの部屋を退出して部下たちに目的地を伝えに行った。
部屋にひとり残ったエリが思うのは最後に取り逃した者。
「必ず捕まえて正体を見せてもらうわ」
対等に戦える相手との再会にエリは闘志を燃やす。
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