第204話 救出作戦会議
琉海がスミリアに案内された場所は最初にこの町に来た時に向かった酒場だった。
ちなみに、エアリスは琉海の中で休んでいる。
屋内に入ると数人がテーブルを囲んでいた。
琉海の知っている顔もいるが、一人だけ見たことのない女性がいた。
「全員揃ったな。明日からの作戦について認識合わせをしたい。幹部たちはここでの決定を部下たちに連携してくれ」
招集した全員が揃ったことを確認したレオンスはそう言った。
しかし、レオンスの進行を妨げるように手を挙げる者がいた。
「その前にひとついい?」
手を挙げたのは琉海と面識のない女性だった。
「なんだ?」
「知らない顔がいるんだけど」
その女性は琉海のほうへ視線を向ける。
「ああ、イローナとは顔合わせをしていなかったか。彼がスミリアの推薦で入ったルイだ」
「で、なんでそんなどこの人間かもわからないようなやつが幹部会議にいるわけ?」
イローナは琉海を信用できないようだ。
まあ、これから帝国に打撃を与えようと思っている作戦に信用できない人間がいれば、こういう対応にもなるだろう。
だが、それは何も知らないイローナだけのようで、脱出時のことを知っているメンバーは一定の信頼は勝ち得ていたのか、レオンスが琉海を擁護する。
「彼は戦力になる。少なくともここにいる者の誰よりも強い。そして、〝剣帝〟と戦い、我々が逃げるだけの時間を稼いでくれた。ここまでの実績だ。この会議に参加させるだけの資格はあると思うが?」
「このガキが?」
イローナは琉海の頭から足先までを疑いの目で見る。
「それに、これからの作戦にはルイの協力は不可欠だ。作戦遂行のためにも作戦の詳細を把握してもらわなければならない」
作戦には協力が不可欠である旨を伝えたことで、イローナは溜飲を下げた。
「わかったわ」
「一応、琉海にも皆を紹介しておこう」
レオンスがそういってここに集まる幹部たちを琉海に紹介した。
ギード ・フランク――レオンスの幼馴染で反乱軍の参謀。
基本的にレオンスとギードの二人で反乱軍の作戦を立てているようだ。
ルノー――琉海たちとの模擬戦闘で負けたが反乱軍では戦闘部隊の隊長。
ニコル――金銭面の管理を担当。
イローナ ・アルダン――反乱軍の女性陣のまとめ役。
そして、スミリア。
レオンスを含めた6人がイラス王国民反乱軍の幹部のようだ。
「とまあ、ここにいるのは作戦部隊の幹部だけだけどな」
他の町で反乱軍として差別され困窮しているイラス王国民を保護する部隊などもあるそうだ。
「ただ、このままだと俺たちは死を待つだけだ。そうならないためにも、我々の戦力を手に入れる」
レオンスは机に地図を広げ、一点に指をさす。
「ここに収監されている仲間たちを解放する」
その場所はこの酒場でレオンスと会話したときに聞いた監獄の場所だった。
レオンス達の目的も敗戦時に捕らわれた仲間を救出したいようだ。
スミリアはエルフの村の人たちと子供たちの両親を救出したい。
そして、琉海もここにアンリがいると予想している。
皆、目的は同じだった。
「作戦を説明する――」
レオンスは仲間奪還の作戦を念入りに説明した。
「まず、部隊を支援部隊と陽動部隊、そして、救出部隊の3つに分ける。支援部隊にはイローナとニコル。陽動部隊にはルノーとギードの2人に指揮を頼む。そして、救出部隊はルイたちとスミリアの少数精鋭で向かってもらう」
「少なくないか?」
琉海、エアリス、リーリア、スミリアの4人で救出作戦をしろとレオンスは言っているのだ。
この人数で向かうのは得策ではないだろう。
「そのための陽動部隊だ。陽動部隊が帝都近くの町を占拠する。そこに戦力が集中するだろう。そうなれば、収監所も手薄になる。その隙を突けば、4人でも十分だ。それも〝帝天十傑〟と同等の力を持っている人間もいれば、成功確率はさらに高くなる」
「なぜ手薄になると言い切れる?」
「今、帝都に駐在する兵力はそこまで高くない。中央貴族が総替えしたときに練度の高い兵を持つ貴族たちは辺境に追いやられたからだ。今の帝都は脆弱と言える。まあ、当の本人たちはそうは思っていないだろうけどな。そして、現在の中央貴族たちは帝都近くの町が占拠されるなんていう事態は経験したことがない。もし、近くの町が占拠されたと伝われば、いつ帝都に攻め入られるか不安になるだろう。その不安を解消するために使える兵力は使うはずだ。いや、使わせるように陽動部隊が煽る予定だ。その辺はギードがやる」
「ああ、わかっている。そこは任せろ」
ギードは頷いて眼鏡を中指で押し上げた。
「9日後にはギードの陽動作戦を開始する。その翌日の深夜に救出作戦を開始してくれ」
「つまり、10日後の深夜に忍び込めってことか」
「ああ、それだけ時間経てば、動かせる兵は動くだろう。それと、スミリア、子供たちは連れて行けないからこの町に置いていくように伝えろ」
さすがに敵陣の中に子供は連れていけない。
「……わかったわ」
スミリアも理解しているのか、頷いたが不安の色が表情から見て取れる。
「ここなら子供たちがいても大丈夫だ」
「女組も数人ここに残るから子供の面倒は彼女らに任せればいい」
女性陣の指揮をしているイローナは心配ないと言う。
イローナの提案で多少は子供たちを残すことに前向きになったようだ。
「ありがとう。後で残る人たちと子供たちを会わせてみるわ」
これで子供たちだけを残していく心配はなさそうだ。
その後も細かい部分の認識合わせをしていった。
作戦会議後。
スミリアは子供たちに残るように説得を試みた。
最初は子供たちも付いていくと言っていたが、子供たちの両親を助けるためであることを丁寧に説明して納得してもらった。
これで、明日から憂いなく作戦を遂行できるだろう。
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