第193話 脱出と合流

 町をいち早く脱出していたリーリアは、スミリアと子供たちと一緒に辺りが木々に囲まれている場所にいた。


 ここが脱出口の出入り口だったようだ。


 どのくらい離れているのかわからないが、かすかに喧騒が聞こえていた。


 そこまで町から遠いわけではなさそうだ。


 しばらく待つと、リーリアたちが使用した脱出口の洞窟からレオンス達がやってきた。


 その後には裏町で過ごしていたであろう人たちもいた。


 どのぐらいいるのかわからないが、まだまだいるようだ。


「スミリア達が最初か」


「ええ、リーリアたちに逃げるよう言われたから」


 レオンスの問いにスミリアは近くにいるリーリアを見て頷いた。


「こっちもルイに言われて撤退したからな」


「そのおかげで、我々の損害をだいぶ抑えることができた」


 レオンスの傍でギードが後方に集まる反乱軍を見て言う。


「それで、ルイたちはどこ?」


 リーリアが辺りを見回すが琉海の姿はなかった。


「わからない。我々を逃がすために〝剣帝〟の足止めをしてくれていたんだが……」


 レオンスも琉海の動向はわからないようだ。


 レオンスの後からも続々と裏町にいた者達が出てくる。


 脱出できたとはいえ、ここはまだ町に近い。


 出入口が茂みなどでわかりにくくなっているものの、そこに人が増えれば見つかるのも時間の問題だ。


 現在がまだ夜なのが幸いだった。


 それも作戦の内なのだろうけど。


「避難者はまだいるからな。夜の間にできるだけこの町から離れる」


 レオンスは闇夜に紛れて避難する予定のようだ。


「離れるって言っても、どこに向かうつもり?」


「ここから徒歩で2日かかる町がある。そこに俺らの別動隊がいる。そこと合流する予定だ」


「この人数で?」


「いや、戦闘員だけだ。非戦闘員は別の町に向かってもらう。それでも人数は多いから、少数一組で合流地点に向かう手筈になっている。本当ならこの町を占領してからの予定だったんだが……」


 レオンスはそう言って逃げてきた人たちを見る。


「仕方ない。被害を最低限に抑えることができたんだ。後方を気にしながらになるが、作戦は前に進んでいる」


 ギードが眼鏡の位置を指で上げてブレるなと目で忠告しているようだ。


「作戦は継続。進める方向で動くからな」


「ああ、それでいい」


 ギードの視線の意図を汲んだのか、ギードの確認にレオンスは頷いた。


 ギードはレオンスの承諾をもらうと、撤退してきた反乱軍たちにこれからの動きを指示しに行った。


「それで、君はどうするつもりだ?」


「私?」


「彼がいなくなってしまった現状でも同行してくれるのか?」


 レオンスはリーリアに聞く。


「私は……」


 リーリアは迷っていた。


 一旦、町に戻り琉海の安否を確認してから、反乱軍が目指す町に向かうか。


 または、このまま反乱軍と一緒に町へ向かうか。


 エルフの村の人たちを解放するために力を貸したいと思うが、ルイの安否は気になっていた。


「ここもすぐに離れる。あまり時間がないから、どうするか決断してくれ」


 レオンスと近くにいるスミリアがリーリアの決断を待つ。


「私は――ッ!?」


 リーリアが言おうとしたとき、自然力の波を感じて雑木林の方へ顔を向けた。


「どうした?」


 レオンスは自然力を感じることができないからわからないのだろう。


 しかし、隣にいたスミリアも気づいていたようだ。


「ちょっと、ここで待ってて!」


 リーリアはそう言って駆け出した。


 揺れる自然力。


 このように漂う自然力に波を作れるのは精霊術を習得しているエルフでも多くはいない。


 ただ、リーリアはこの波を生み出しているのはエルフではないだろうと思っていた。


 リーリアはつい最近、同じことをしていた人物を知っている。


 自分の推測を確かめるために木々を避けながら、この波を起こす中心点に向かって走り続けた。


 すると、2人の姿が視界に入った。


「ルイ! エアリス!」


「あら、早かったわね」


 エアリスが琉海に膝枕した状態で座っていた。


「やっぱり、エアリスだったのね」


「敵の索敵のついでにあなたに気づいてもらえればと思っていたけど、割と近かったのね」


「ええ、あっちに脱出通路の出口があるわ。それよりも、ルイに何かあったの?」


 リーリアとエアリスが話していても微動だにしない。


「血を流し過ぎて、疲れて寝ているだけよ。回復すれば起きると思うわ」


「そうなんだ。でも、そこまで時間がないみたいよ。彼らはすぐに次の町に移動するって言ってる。これからどうする?」


「そうね……」


 琉海の回復を待つなら、彼らの目指す町を聞く必要がある。


「時間がないなら行こう」


 エアリスの足元から声が聞こえてくる。


 気づけば、琉海が瞼を開いていた。


「もう、いいの?」


「休んでいられないだろ」


 琉海は立ち上がろうとして、ふらつく。


「おっと……」


「本当に大丈夫?」


 リーリアもさすがに心配しているようだ。


「少し休めたから、なんとか大丈夫だ」


 琉海の問答無用だという視線にリーリアは内心ため息を吐いた。


「わかったわ。なら、案内する。こっちよ」


 リーリアはそう言って、琉海とエアリスをレオンスたちの元へ案内した。

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