第192話 町の終わり
「そんなものがあるわけないでしょう!」
デルクライル子爵が屋敷内の執務室で声を荒げていた。
エリに隠し通路について問い詰められていたからだ。
必死の形相で言っているところを見るに、彼は知らないのだろう。
「そうか。なら、あなたが知らないだけか。他の脱出方法があることになるな」
エリはデルクライル子爵が何か隠していないか視線で問う。
必死の形相で町の地図を見るデルクライル子爵はその視線に気づかなかった。
知らない隠し通路があれば事前調査を怠ったことで責任問題になる。
その責任はこの町の責任者であるデルクライル子爵だ。
そして、抜け道が見つからなければ、出入りが自由になってしまう。
領主の知らない場所でどんな暗躍が行われるかわからない状態になる。
いつ首を狙われるかわからない状態でここに住みたいと思う領主がいるだろうか。
おそらくいないだろう。
大きい町に領主が居ない状態。
無法地帯となっても可笑しくない。
この責任は大きい。
結果はどうあれ、町から忽然と消えた元イラス王国民の行方とその方法は見つける必要がデルクライル子爵にはあった。
「わかっていると思うが、最低でも抜け道の入口ぐらいは見つけないと――」
「くっ、わかっています。傭兵と私直属の兵を使って探させます!」
汗をかきながら、地図を睨み続けるデルクライル子爵。
これだけ言えば、怠けることもないだろう。
人海戦術で虱潰しに探せば、見つけることができるだろうとエリは推測していた。
デルクライル子爵がその抜け道を見つけられなかったのは、事前調査を徹底的に行わなかったからだと思っていた。
しかし、彼らは知らなかった。
反乱軍が町から脱出した通路は地下の闘技場から繋がっていた。
虱潰しに探しても認識できなければ、見つけることはできない場所。
地下闘技場への入り口は魔道具で認識できないようになっている。
エルフがいればすぐに見つけられただろうが、配下にはいなかった。
デルクライル子爵のルダマン帝国人第一主義の思想が招いた悲劇だった。
見つけ出す能力のない彼らは何かの偶然で見つかる以外に方法はなかった。
デルクライル子爵とその配下たちは神頼みのような捜索を続けるのだった。
そして、脱出経路を見つけることはできなかった。
***
琉海は町から離れるために木々に紛れながら、疾走していた。
精霊術を覚えてから始めて感じる倦怠感。
血が足りていないのだろう。
「はあ、はあ……」
息も切らしていた。
精霊術を覚えて数日だが、この感覚を久しぶりと感じる。
目視では見つからないほど遠くまで走った琉海は足を止めた。
「この辺まで来ればいいか」
琉海は後方を見て追手が来てないことを確認する。
追手が来てないことで緊張の糸が切れ、膝を突いた。
「少し休んだ方がいいわよ。周囲は私が警戒しておくから」
エアリスが実体化してそう言う。
(さすがに血を流し過ぎたか)
体が重く、力が入りにくい。
休まないとこれ以上の戦闘はできそうになかった。
エアリスが周囲を警戒してくれるならと、頷いた。
「わかった。少し休ませてもらう」
琉海は腰を下ろし、木を背もたれにした。
予想以上に疲れていたのか、瞼を閉じるとすぐに寝息を立てた。
「ゆっくり休みなさい」
エアリスはそう呟いて琉海の隣に腰を下ろした。
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