第190話 撒かれた者

「何が起きてるの……?」


 地面に吸い寄せられるようで地面から足が離れない。


 どうしてかわからなくて素が出てしまっているエリ。


(何なのよ……もう!)


 エリはローブの男が防壁を一足飛びで超えていくのを眺めることしかできなかった。


 防壁の外は灯りがなく、闇夜に紛れられてしまえば、追跡することは難しい。


 目視できなくなった時点で追うことを諦めるしかなかった。


(動けないし……)


 エリはフードの男――琉海を追うことを諦めて雷化を解いた。


 しかし、しばらくそこから動くことはできなかった。


 エリは知る由もないが、雷化を解いても帯電している磁力がエリの体に留まっているせいで磁石から離れられなかった。


 時間が経つとエリの体から磁力が無くなり、地面から足が離れるようになった。


「あっ、離れた!」


 エリは一応、確認のために防壁まで近づき、防壁の上まで駆け上がった。


 想像していたとおり、辺りは暗く木々も生い茂っており、障害物が多く見渡しが悪い。


 隠れる場所はいくらでもあった。


「見つけるのは難しそうね」


 顔を見ることはできなかったから、指名手配することもできない。


 感電したときにローブを剥ぎ取るべきだったかと思うが、どういうわけか重症を負っても動けていた。


 あのとき近づいていたら、腕か首が飛んでいたかもしれない。


 そう思うと、近づかなかったのは悪くない判断だったのだろうとエリは思った。


 エリが実際にローブを剥ぎ取っていれば正体を確認できたことをエリは知る由もなかった。


 エリは防壁の上から下りて、残りの暴動を起こした者達を捕まえに町中を駆ける。


 町中を見て回るが、暴動を起こした者達は見当たらなかった。


 裏町内も見たが、もぬけの殻。


「顔を判断できなかったから、町の人間に紛れ込まれるとわからないわね」


 おそらく、大半は町から逃げたのだろう。


 全員がそうとは限らない。


 町民に紛れているのも少なからずいるだろう。


 しかし、紛れているかを確認するには顔を知らないとわからない。


 町民に紛れるのに服装も身ぎれいにしているだろう。


 あれだけ速やかに逃走へ切り替えられるところを見るに感情的に始めた暴動ではない。


 明らかに計画的なものだとエリは思っていた。


 そんな計画に服装がそのままで紛れようなんてことはしないだろう。


 ここまで用意周到に準備していると考えると、町民の中から暴動を起こした犯人を捜すのは無謀だ。


 そうなると、逃走経路を追うのが一番と考えた。


 町の外側を囲む防壁を一足飛びで超えるなんてことができるのは、あのフードの男ぐらいだろう。


 夜間は町の門を閉ざしている。


 門から町を抜け出すことはできない。


 なら、別の脱出手段があるのだろう。


 その場所を突き止めるために裏町から逃げ遅れている人間がいないか探ったのだが、見当たらなかった。


 数百人はいるだろうと思われたが、忽然と消えた。


「誰もいないわね」


 手あたり次第に家屋内を確認したがそこももぬけの殻。


 裏町に住んでいたすべてがいなくなった。


 どこかにこの町から出られる抜け道があるはず。


 しかし、見つけることは叶わなかった。


 裏町に遅れて来た傭兵たちにも聞いたが、彼らもフードの男に足止めされて反乱軍を見失ってしまっているようだ。


「これはもう無理そうね」


 逃げ遅れから逃走経路を探ることは望みが薄いようだ。


 完全に相手が上手だった。


 計画に気づけなかったのもだが、あのフードの男。


(あれだけの強さを持つ人間があちら側にいるとはね)


 相手の目標はデルクライル子爵だったのだろう。


 目標を防げたが、成果は大きくなかった。


 今回の作戦は失敗に終わっても何かしらの作戦が動いているだろう。


 この町だけで起こっていると考えるのは思慮が浅い。


 エリは逃走した暴動者たちを探すのを諦め、意識を奪っておいた暴動者たちの場所へ向かった。


 彼らが簡単に情報を吐いてくれるとは思わないが、今後の計画などの手掛かりが掴めるんじゃないかと足を向けた。

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