第188話 〝剣帝〟の奥の手

(こいつは何者? 私の剣を難なく防いでくる。それに……)


 相手の動きが着実に良くなっていた。


 剣を合わせるたびに動きに無駄がなくなってくる。


 相手の動きが自分の動きと被る部分もあった。


 まるで自分と手合わせしているようだ。


(相手も《トランサー》のようね)


 フードの男の能力は動きをマネすることだとエリは想定する。


 だが、相手が《トランサー》だとわかってもエリに打てる策はそこまで多くなかった。


 威力の高い攻撃は町の住民を吹き飛ばしかねない。


 制限された中での戦い。


 それでもエリはフードの男を抑えられると最初は思っていた。


 エリ自身も《トランサー》だからだ。


 《先読み》の《トランサー》。


 相手を見ると半透明な分身が数秒先の動きを教えてくれる。


 その動きに合わせれば、躱すことも防御することも反撃することもできる。


 ただ、フードの男は先読みできなかった。


 いや、見えているけど、ほとんど《先読み》の分身と重なっていた。


 いままでにない経験だった。


 〝帝天十傑〟同士で殺し合えるなら、同等の戦いをできたかもしれないが、それは皇帝が許さない。


 久々のまともな戦闘にエリの口角が上がる。


 剣戟の激しさが増すが、フードの男の足を止めるには至らなかった。


 本当にびくともしない。


(これだけ戦える相手がイラス王国にいただろうか?)


 エリの思考は相手が誰なのかを探ろうとしていた。


 元イラス王国にこのような者はいなかったはず。


 少なくともエリの中に思い当たる人物はいなかった。


 まずは足を止めるためフェイントを混ぜるが、通用しない。


 剣を交えながら、追い続けると裏町の奥に入っていく。


 灯りも乏しく、閑散とした場所。


(闇夜に紛れようと考えているのかもしれないけど、私には通用しない)


 〝帝天十傑〟で夜目を鍛えていない者はいないだろう。


 屋根伝いに逃げるフードの男を追うと、再度、風の魔法・・で吹き飛ばされそうになる。


 屋根から屋根へ移動する瞬間を狙われた。


 他の家に掴まることで飛ばされなかったが、距離は大きく離されてしまった。


(埒が明かないわね)


 地面に着地したエリは辺りを確認する。


(人気はなさそうね)


 裏町のほとんどが暴動に参加していたのだろう。


 周囲に人の気配はなかった。


(ここなら使っても大丈夫そうね)


 エリは剣を体の前で構え、切っ先を上に向けて目を瞑る。


 すると、次第にエリの身体が帯電しはじめる。


 そして――

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