第183話 作戦の決行と予想外の存在

 日が沈むと仕事終わりの者たちが酒場に集まり騒ぎ始める。


 そんな喧騒の中を反乱軍が動き出す。


 最初の騒ぎはとある大きめの一軒屋からだった。


「な、なんだ! 貴様ら!」


 布で顔を隠した者達が屋敷に入り込んできた。


 叫ぶのはデルクライル子爵の腹心――ウグルン・バウムの屋敷だった。


 作戦を決行する際に反乱軍は布などを巻いて顔を隠しているため、表情が見えない。


 表情が見えないことで、何を考えているのかわからなかった。


 それが余計に恐怖を感じさせる。


 恐怖が正常な判断を鈍らせ、ウグルンは只々罵倒を繰り返すばかりだった。


「黙れ」


 叫び続けるウグルンを縛り上げ、口に猿ぐつわを噛ませた。


「んん! んんん!」


 ウグルンが何かを叫んでいるが、反乱軍は取り合わない。


「目標の制圧完了。合図を」


 覆面の一人がそう言うと、近くにいた男が空へ魔法を放った。


 ただ煙が昇るだけの魔法。


 しかし、これが合図になる。


 この町を取り戻す狼煙だ。


 琉海もその煙を視認して動き出す。


「さて、行きますか」


 《創造》でフード付きのマントを生み出す。


 それをエアリスとリーリアに配り、自分も羽織る。


 これで顔と体形がわかりにくくなる。


 雑貨店で確認した作戦書には顔を隠すように注釈があった。


 おそらく、失敗時のことを考えてのことだろう。


 逃げる際に顔がバレてしまえば、逃走も難易度がかなり高くなるからだろう。


 琉海たちの目標はデルクライル子爵の屋敷だった。


 そこが最終目標なのだろう。


 空に昇る煙に気づいた町民が立ち尽くして近くの人と話しているのを尻目に、目標地点に向かう琉海たち。


 人だかりを躱しながら進んでいると知っている顔が視界に入った。


「ちょっと横道に入ろう」


「え? なんで?」


 琉海の制動に困惑するリーリア。


 この道を真っ直ぐ進めば目的地なのだが――


「ここは通らない方がいいと思うわよ」


 琉海の言動を後押しするエアリス。


「そうなの?」


 リーリアとエアリスの視線が交差する。


 リーリアは上級精霊のエアリスには強く言えないようだ。


「わかったわ。どうしてかは後で説明してよね」


 リーリアの承諾を得て、近場の横道に入った。


 相手から見えないことを確認し、縁から大通りを覗き見る。


「あそこにいる銀髪の女性が見えるか?」


「ええ」


 琉海の横から一緒に覗き見て確認するリーリア。


「あれが噂に名高い〝剣帝〟だ」


「えっ――ッ!?」


 リーリアが突然大きい声を出したので、琉海が口元を手で塞いだ。


「声が大きい」


 琉海は角から様子を伺い、こちらに注目が集まっていないことに内心でホッとする。


 そして、〝剣帝〟だと思われる銀髪の女性もデルクライル子爵の屋敷の方向に走って行くのが見えた。

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