第184話 尾行と報告
〝剣帝〟が走り去っていくのを見送り、琉海は思案顔で呟く。
「これだと話が変わってくるんじゃないか?」
この作戦は〝剣帝〟がこの町にいないことを前提に立てられていたはず。
前提条件が崩れてしまったこの作戦の勝率は低くなった。
レオンスの〝剣帝〟を避けたいと言っていたことから、〝剣帝〟が参戦するだけで作戦が崩壊する恐れがあるのが想像できる。
反乱軍が瓦解する前にこの事実をレオンスたちに報告しなければならない。
そして、〝剣帝〟が何故この町に残留しているのかもわからない。
不安要素の目的がわからないことが、警戒度を上げさせる。
「エアリス、粒子化して〝剣帝〟の監視をお願いできないか? 〝剣帝〟の目的を知りたい」
「いいわよ。目的を探ればいいのね」
「ああ、頼む」
エアリスは実体を解き、粒子化して霧散した。
さすがに強いと言われている〝剣帝〟でも粒子化したエアリスを見つけることはできないだろう。
「俺たちはレオンスに報告しよう」
ここで反乱軍が全滅して助けられないと大切な情報源を失うことになる。
いや、必要な情報源を持っているのはレオンスと、おそらくスミリアも場所を知っているだろう。
そうでなければ、スミリアがレオンスたち反乱軍を信用できるとは思えない。
極論を言えば、この二人のどちらかを守れれば問題ないのだが、アンリを助け出す確率を上げるなら反乱軍を陽動として使えればベストだ。
琉海は頭の中で優先順位を付ける。
「レオンスとかいう男のとこに行く? どこにいるかわからないけど」
「いや、スミリアのところに行こう」
「え? でもどこに?」
「俺たちが知っているレオンスかスミリアの居そうな候補は二つ。地下闘技場かスミリアの家」
「ここからだとスミリアの家が近いわね」
「ああ、そっちから先に向かおう」
琉海とリーリアはスミリアの家に向かった。
「それでなんであの銀髪の女が〝剣帝〟ってわかったのよ?」
走っている道中にリーリアが聞いてくる。
「たまたまだよ。昨日の昼間に勧誘を受けただけだ。ただ、〝剣帝〟と明言していたわけじゃないから、〝剣帝〟である確証はないけど、可能性はかなり高い」
〝剣帝〟ではなかったなら、杞憂で済まされる。
しかし、そうでなかったら、致命的だ。
そんな会話をしているとスミリアの家に辿り着くと、家の前に子供とスミリアが一緒にいた。
「スミリア! レオンスはどこにいる?」
声をかけると子供を庇って臨戦態勢になる。
すぐに相手が琉海であることがわかると構えを解いた。
「どうして、ここにいるの?」
突然、現れた琉海に混乱しているスミリア。
「その辺の話は後だ。レオンスはどこにいる」
「えっと、たぶん領主の屋敷に向かってるはずだけど」
(くそ、俺と同じ標的だったのか)
作戦はその個人ごとに割り振られているだろう。
おそらく、渡された木彫りの意匠などであの雑貨店で見せられる作戦が違うのだろう。
入れ違いになってしまったのは仕方ないと割り切り、思考を切り替える。
「わかった。リーリアはスミリアと子供を連れてこの町から離れろ。レオンスには俺が伝えて作戦を中止するよう言ってくる」
リーリアはそれに頷いた。
「ちょ、ちょっと――」
作戦を中止させると琉海が言った事でスミリアが反応する。
それをリーリアが抑える。
「スミリア、説明するからここからは離れるわよ」
スミリアが引き留めようとするのを聞き流し、琉海は来た道を引き返した。
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