第173話 反乱軍の中枢
とある一軒家にスミリアは入った。
その家はボロボロでいつ壊れてもおかしくないほど破損していた。
災害が起きればすぐに倒壊するだろう。
家中は居酒屋のような内装になっているが、店員も客もいなかった。
無人の中、奥へと進むと床に扉があった。
スミリアはその床にある扉を開け、下へ向かう階段を下りた。
もともとは貯蔵庫として使われていたのだろうか。
暗い通路を真っ直ぐ進むと空間が広がる。
その空間には中央に机があり、机の上にはランプが一つ置かれていた。
その机を囲むように4人が立っていた。
「お待たせ」
「遅かったな」
スミリアが入ってくると入口に近かった男性――ルノー(スミリアの家に来た男)が声をかけた。
「ちょっと話していたから」
「本当にあいつらは大丈夫なんだろうな」
ルノーが警戒するのもわかる。
それでも、スミリアはリーリアを信用していた。
ハイエルフの彼女が私に嘘を吐く必要もない。
リーリアと一緒にいた少年も嘘を吐くことは難しいだろう。
リーリアの師匠であるマルティアと面識があるようだし、
嘘を見破る魔道具を持っているという話もあった。
リーリアが信用しているということはマルティアが信用していると同義なのだ。
「ええ、大丈夫よ」
ルノーにそう答えると――
「全員集まったようだな」
この部屋の一番奥に立つ男――レオンス ・クレイダーマンが部屋内に集まった4人に視線を向けた。
レオンスはこの反乱軍の総指揮官。皆からは団長と呼ばれている。
元イラス王国の貴族で武闘派貴族だったようだ。
「今回、集まってもらったのは、この町に〝剣帝〟が来たからだ」
「団長。なんで〝剣帝〟が来たんだ?」
レオンスに聞くルノー。
「それについては私から話そう」
ひとりの男が眼鏡を指で押し上げてそう言う。
その男は反乱軍の参謀役であり、レオンスの幼馴染であるギード ・フランクだった。
「結論から言うと、〝剣帝〟は俺たちに気づいてこの町に来たわけではないようだ」
「それは本当なの?」
壁を背もたれにして腕を組んでいる女――イローナ ・アルダンは鋭い視線を向ける。
彼女は反乱軍に所属する女性たちをまとめている。
「ああ、これは確かな情報だ」
「その情報源は何?」
「それは言えない。ここにいる誰かが捕まり、拷問によって情報を吐いてしまう恐れがあるからな」
「そう」
イローナはそれ以上、聞くことは無いのか目を瞑ってしまった。
「何か他に質問はあるかな」
ギードが4人を見回すが、誰も口を開かなかった。
「なさそうだね。なら、これからのことについて話す」
ギードは〝剣帝〟の扱いと反乱軍の今後の動きを説明した。
「〝剣帝〟は別の目的があるようだ。だから、〝剣帝〟が滞在中は大人しくすることにする。〝剣帝〟がこの町から離れたら、占領作戦を実行に移す。〝剣帝〟が我々の存在に気づいたら、逃走経路を使用してこの町から出る」
ギードが一通りの作戦を話し終えると、レオンスが口を開いた。
「いいか。捕られた者を返してもらうまでは止まるわけにはいかない。誰かが捕まったとしても、作戦は遂行させる。だが、少数でどうにかできる作戦じゃない。だから、馬鹿な真似をする者が出ないように注意してくれ」
レオンスの言葉に4人は頷いた。
「よし。これで会議は終わりだ」
レオンスが会議を閉めようとした時、スミリアが手を上げた。
「どうした?」
「反乱軍への加入に推薦したい人たちがいるの」
「ほーう。そいつらは信用できるのか?」
「ええ、ひとりは私の知り合いよ。後の二人はその知り合いの恩人よ。それと戦力にはなるみたいよ」
「うむ……」-
無精髭を触りながら、唸る。
スミリアの話を吟味しているようだ。
「おい! それってさっき家にいたあいつらか?」
スミリアとレオンスの話にルノーが割り込んだ。
「会ったのか?」
「ああ」
「どんな印象だった?」
「そうだな。ガキの男ひとりと女二人だったが、男のほうは線が細くて戦力になると言われても何ができるんだって感じだな。女二人も戦闘では使い物にならないかと思う」
「ルノーがそう言うなら、武術ではないのだろうな。そうなると、得意なのは魔法か……」
レオンスは少しの間、黙っていたが頭をガシガシと掻き、ため息を吐いた。
「ここで考えてもわからんな。会ってみるしかないか。見込みがあるなら、入れてもいいだろう。スミリア、そいつらの元へ案内してくれ」
「わかったわ」
会議は終了し、スミリアはレオンスとルノーを連れて琉海達が待つ自宅へ向かった。
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