第172話 反乱軍の存在と新たな手掛かり
町を転々としてエルフの里を目指そうとしたようだが、ある町でひとつの情報を手に入れた。
「情報?」
「ええ、この町に来ているのもその情報があったからよ」
「その情報っていうのは?」
「この町は元々イラス王国の領土だったのよ。ルダマン帝国がイラス王国を滅ぼしたときにルダマン帝国の領地になったのだけれど、統治が上手くできていないみたいなのよ。この子を追ってここまで来たなら、見たでしょ?」
「浮浪者が多かったわね」
「浮浪者だけならまだいいわ。飢餓で苦しんでいる人もいるし、餓死者も出てきているのよ。それがすべて元イラス国民なのよ。表の通りを歩いている人間はほとんどがルダマン帝国民。まともに職を持つことができない元イラス国民はこの裏街道で餓死するのを待つしかない状況なのよ」
「そんな状態だったのか……」
餓死するほど苦しい状況とは知らず、スミリアの説明に琉海は唖然とする。
「この状況を元イラス国民は黙っているわけがないわ。私が掴んだ情報はこの町に反乱軍ができたことを知ったのよ」
「それでこの町に来たのね。で、その反乱軍とは会えたの?」
スミリアは数瞬リーリアと視線を合わせてから口を開いた。
「私は反乱軍に入ったわ」
「えッ!? それは本当なの?」
「ええ、反乱軍との利害が一致したから」
「利害?」
「私は囚われている村の人たちを助けたい。反乱軍は戦力になる人が多く欲しい。それが利害の一致よ。それに囚われているのは、エルフだけじゃないみたいなのよ。元イラス王国の中でも魔力が高い人は捕まってどこかに運ばれたって話よ」
「それだけで捕まっているかどうかわからないんじゃない? どこかに運ばれて殺されている可能性もあるでしょ」
「私が夫婦二人の様子を見に行ったって言ったでしょ。その時に兵士が喋っていたのよ。だから、これはたしかな情報よ」
(ルダマン帝国は魔力の高い者を捕らえているのか……)
アンリを攫ったディルクス・アルフォスはルダマン帝国の兵士。
もしかしたらと考えてしまう。
「その捕らえた人たちを収容している場所はどこか知っているのか?」
「知っているけど、こちらにも計画があるわ。信用できるかわからない人に教えることはできないわ」
スミリアは琉海の問いをきっぱりと断った。
「私の恩人でも?」
リーリアが助け船を出してくれたが――
「ごめんなさい。リーリアの恩人でも無理な相談よ。反乱軍に入っていると外部に言うだけでも、かなり危ないのよ」
「なら、私たちも反乱軍に入るならどう?」
「え?」
リーリアの提案にスミリアは驚いた表情をする。
「私の目的はエルフ村の人たちに連絡することがあったし。そのエルフ村の人たちが捕らわれているなら、助けるしかないじゃない。ルイたちはどうするの?」
捕虜を収容する場所があるならそこにアンリが捕まっている可能性がある。
なら、その手掛かりとなるこのチャンスを手放すわけにはいかなかった。
「俺たちも反乱軍に入るよ。捕虜を収容している場所に用がある」
「そういえば、詳しく聞いてなかったけど、。なんで捕虜の収容所なんかに用があるの?」
「俺たちの目的はルダマン帝国の兵に攫われた人を助け出すことだ。奇しくも利害は一致してる」
「そうだったんだ……」
「そんな簡単に反乱軍に入れるわけがないでしょ」
「スミリアさんは反乱軍に入ることができている。なら、元イラス国民ではなくても問題ないということだろ?」
スミリアはイラス国民ではない。
そしてエルフだ。
反乱軍に入るハードルはそこまで高くないと踏んでいた。
「エルフの村を襲ったことは反乱軍も知っていたから、私がエルフであることを教えることで反乱軍に入ることを承認してもらったのよ」
「なら、こっちにもハイエルフのリーリアがいる。それと俺と
さきほどスミリアが反乱軍は戦力を欲していると言っていた。
これなら、交渉になるかもしれない。
スミリアが琉海とエアリスに視線を流し、最後にリーリアで止まる。
「戦力になるの?」
「少なくとも私よりは強いわよ」
「…………ッ!?」
リーリアの強さを知っているからなのか、スミリアは目を見開いた。
「なら――」
スミリアが口を開いたとき、扉が開かれた。
「た、大変だ。剣帝がこの町に来た!」
息を切らしながら、そう叫ぶ男性が入ってきた。
「それは、本当なの!」
スミリアと顔見知りのようだ。
おそらく、その男性も反乱軍の一人なのだろう。
「すまん。客が来ていたのか」
男性はスミリアに顔を近づけて声を潜めた。
「一応、知り合いとその友達みたいだから大丈夫よ」
男性はスミリアの肩越しから琉海達の姿を覗き見る。
リーリアはブレスレットでエルフであることを隠しているから、男性にはエルフであることはわからなかった。
「そうか。それよりも、剣帝が来てるみたいなんだ」
「目的は?」
「わからない。だが、俺たちのことは見つかるわけにはいかない。これから会議をするからいつもの場所に集まってくれ」
「わかったわ」
スミリアが頷くと男は家を出ていった。
スミリアは男が出ていった後、子供たちに顔を向ける。
「私はちょっと行ってくるから、お留守番をお願いね」
二人が頷くのを確認すると、家を出ようとした。
「ちょっと待ってくれ。俺たちもその会議に参加させてもらえないか?」
「聞こえていたの?」
「これでも強化魔法には自信があるからな」
「私に気づかれずに魔法を使えるなんて、人間にしてはなかなかやるわね」
「なら――」
「推薦はしておいてあげる。でも会議には参加させるわけにはいかないわ。ここで私が帰ってくるのを待ってて」
琉海の言葉を最後まで聞かず、スミリアは家を出ていった。
「はあ、どうなるかな……」
「もしダメなら、あとを付ければいいだけじゃない」
はやる気持ちを抑えている琉海にエアリスが冷静に答える。
「そうだな……」
エアリスの言う通りだと自分に言い聞かせて、スミリアの帰りを待つことになった。
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