第151話 撤退
「…………ッ!」
状況の変化にダルクは思考が追いついていなかった。
(な、なにが起きた……ッ!?)
さっきまで無数の魔法がエルフの少女を捉えていたはず。
それが、劣勢に立っているのは自分たち。
それに加え、あの雨の魔法。
雨粒が針になって襲いかかってきた。
体が勝手に急所を守ったのは普段の鍛錬の賜物だと自分を褒めてやりたいが、今はそんな状況ではなかった。
(まずは、残存部隊の把握をしなくては……)
体の傷の痛みに顔を歪めながらも、周囲の確認をする。
ダルクの能力である《
そして、《虚影》の能力の副産物としてマーキングしてある者たちの存在の消失有無を確認できる。
ただ、この能力で確認できるのは生死の有無のみで、動ける状態であるかどうかはわからない。
(…………くッ! 生きているのは、半数未満か……)
半数未満。
さらに、この中で動ける者は何人いるだろうか。
生き残っている部隊はほとんどが武術部隊。
魔術部隊は全滅だ。
魔法を放った直後に攻撃を受けてしまったのだから仕方がないとはいえ、全滅は厳しい。
打開策を考えようとするが、状況が悪すぎる。
〝撤退〟の2文字が頭を過った。
撤退は隊長のザーガスの作戦の失敗を意味する。
ここまで大がかりな作戦をして失敗に終わってしまっては、責任追及は免れないだろう。
そこまで思考が行き着き、撤退と継続を天秤にかけていたとき――
「へえ、立っている奴がいるのか」
晴れていく視界の奥に立つ者がいた。
口ぶりからこの惨状を起こした張本人なのだろう。
そして、まだ少年と呼んでもおかしくない相貌。
十代の少年だった。
少年の隣にはこの森では似つかわしくないドレス姿の少女が立っている。
(こんな少年少女にやられたのかっ!?)
相手を知ってダルクは驚愕する。
その隣に立つ少女も少年と大差ない歳であろうと推察する。
もうすでに、掴んでいた事前情報と乖離があった。
それでも増えたのはたった2人。
しかし、その2人によって状況を一変させられた。
ダルクには知る由もないだろう。
一変させたのが、少年ただひとりによるものであるとは。
誤解が解けたとしても、現状が変わるわけではない。
むしろ、真実を知ったとき、ダルクは正気を保てないだろう。
そして、その少年が自分を逃そうとはしていないと肌で感じていた。
(撤退の合図を出すべきか……)
腕の負傷で激痛に顔を歪ませるも、ボタンを押す。
プシュッという音の後、赤い煙が空高く上がった。
撤退の合図だ。
森の中とはいえ、空に滞留する煙が残存部隊の目に届くだろう。
使い終わった筒を放り捨て、ダルクは剣を抜く。
手から赤い雫がぽたぽたと落ちているが、ダルクは構わなかった。
ダルクの戦闘意志を悟ったのか、少年が動きだす。
ただ、ダルクに少年の動きは捉えられなかった。
(…………っ!?)
気づいたときには少年の姿は消え、意識が暗転していた。
最後の微かな意識の中でダルクは内心で呟く。
(化物か……)
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