第150話 代償

「なにを……したの……?」


 絶望的な数の魔法が雨のように降り注ぐはずだった。


(私は死ぬはずだった)


 それが、どうしてか無傷である。


 この状況を作った者が眼前の少年であることはわかっているが、何をしたのかリーリアにはわからない。


「喋れるようなら問題ないな」


 リーリアの顔に向けられていた視線が腕で止まった。


 そこは先ほど攻撃を受けて火傷した部分だった。


「残っているマナは回復に使って休んでいていいぞ」


 琉海はそう言って視線を正面に向けた。


 そこには、いつの間にかひとりの男が立っている。


(この男、私に接近を気づかせなかった!)


 リーリアに察知されず接近した男――ダルクだ。


「色々とやってくれたみたいだな。そのお礼・・はしなくちゃな」


 男には聞こえていないだろうが、リーリアにははっきりと聞こえた。


「ルイ。そろそろ」


 エアリスが上を見て言う。


「ああ、わかっている。最初の返礼だ」


 琉海が言い終わると、大雨が降り出した。


 ただし、雨と言えるほど生易しいものではない。


 その雨は琉海の精霊術で制御された水粒。


 雨粒ひとつひとつが針のように鋭くなっており、落下範囲内の物体は蜂の巣だ。


 琉海やリーリア、エアリスがいる場所もその範囲内。


 自分の技でダメージを受けかねない。


 すると、リーリアたちの周りを風が舞う。


 周囲を旋回する風。


 その風は次第に勢いを増し、風の結界へと変貌した。


「2属性の平行使用ッ!?」


 リーリアは琉海が行った事に驚きを隠せなかった。


 昨日まで属性を扱うことができなかったはず。


 それが、もうすでに平行して属性を扱うことができるようになっている。


 圧倒的な習熟スピード。


 リーリアが琉海の所業に驚いていると、さっきまでの静寂は消えさり、辺りが騒々しくなる。


「がッ!?」


「ぐあっ!?」


「がはッ!?」


 雨粒が地面や木々を五月雨に穿つと同時に数多の悲鳴が聞こえてきた。


 苦しみの声。


 命乞いする声。


 泣き叫ぶ声。


 様々な声が聞こえてくるが、琉海は一切手を緩めなかった。


「引き金を引いたのは、お前たちだ。手を緩める気はない」


 数秒間の雨の嵐が止むと、風景は一変していた。


 木々は木片へと変わり、地面には無数の穴が刻まれている。


 想像を絶する光景。


 しかし、その中で人影があった。


「へえ、立っている奴がいるのか」


 琉海は感心したように言う。


 その人影は先ほども琉海の眼前にいた男だった。


 ただ、無傷とはいかず、腕や足を赤く染めている。


 急所のみを守り、その他を切り捨てたようだ。

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