第149話 包囲

 リーリアは木の上から敵の様子を伺っていたが、突然ナイフが飛んできた。


 不意を突かれるも回避に成功するリーリア。


(居場所がバレた!?)


 居場所が見つかったことで攻撃が過激になる。


 ナイフだけではなく、矢が飛んできた。


 そして、追撃で火球も飛んでくる。


「うッ!」


 矢は躱すことができたが、火球は腕で受けてしまった。


 痛みが走るがそれどころではなかった。


 リーリアは闇夜に身を隠すため、別の木に飛び移った。


 しかし、それを狙っていたのか、飛び移った瞬間にリーリアの足首に重りの付いた縄が絡みつき、引っ張られた。


 突然のことにリーリアは悲鳴を上げた。


 予想外のことにリーリアの思考は混乱状態だった。


(どういうこと。なんで突然ッ……!?)


 右腕に負った火傷が幻覚ではないと主張する。


 リーリアは常に自分に接近する者がいないか確認していた。


 遠距離主体の戦い方をするリーリアにとって、感知スキルは最も重要な技術だ。


 鍛錬を怠らず磨いてきた自負がある。


 そのおかげで、感知スキルは高い水準で使えていた。


 そんなリーリアに気づかれず、接近できる者がいるとは思えなかったのだ。


 あまりのショックに自分が包囲されている・・・・・・・ことにも気づかず、リーリアは地面に体を打ち付けた。


 体が覚えていたおかげで、反射で受け身は取れたが思考が追いついていない。


 リーリアの思考が戻らぬ内に――


「放て!」


 男の声が森に響き渡った。


 瞬間、幾重もの魔法が放物線を描いてリーリアに集中砲火される。


 近くに潜んでいた者たちからは、直線軌道の魔法が放たれた。


 魔法の種類は様々。


 各々が得意とする魔法を放ったのだろう。


 闇夜を照らす魔法の数々。


 まさに数の暴力。


 総数1500以上の魔法がリーリアに襲いかかった。


「くッ……」


 感知能力の高いリーリアにはわかってしまった。


 思考はまだ混乱の中でも本能が理解してしまう。


 ここで尽きると――


 それでも、望みが薄くとも、生存本能が身体強化の出力を強めた。


 精霊術が魔法より高出力を出せるとはいえ、ひとりの力には限界がある。


 数を揃えられたらなす術もない。


 それが1500人となると、ひとりで対抗するのは愚の骨頂。


 だが、どの世界にも規格外という者が存在する。


 数千人の軍隊でやっと撃退できるような生物・・を一人で倒してしまうような人間が――


「え……?」


 声を出したのはリーリアか。


 それとも敵だっただろうか。


 または、その両方だったかもしれない。


 いずれにしろ、全員がその光景に呆けてしまった。


 先ほどまで闇を照らすほどの魔法の数々が消え去り、静寂が訪れているのだから無理もない。


 その静寂を作り出した少年は――


「無事みたいだな」


 いつの間にかリーリアの傍におり、1本の剣を携えて立っていた。

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