第148話 侵入者の行軍

 ルダマン帝国軍。


 総勢2000人を100人規模の部隊に分けて森の中を進軍させていた。


 その100人の部隊も少人数の小隊に分け、等間隔の距離を保ちながら森の中を行軍している。


 すると、先行していた部隊の足が止まった。


『今すぐ来た道を戻れ! さもないと命はないと思え!』


 森中に反響する声。


「女の声か……」


「情報通りだな」


「まず一人目か」


「合図を送れ」


 先行していた6人の部隊はすぐさま空に向かって魔法を放った。


 火の玉が空に放たれて破裂する。


 大きな音が森中に響き渡る。


 多くの部隊に情報を伝えることができた。


『逃げる気はないみたいだな』


「逃げる気?」


「そんなモノあるわけないだろ」


「俺たちはこの森をもらいに来たんだからな」


「円陣を組め!」


 指揮官の命令で素早く背中合わせに円陣を組み、敵の居場所を探る。


 だが、暗い森の中では、遠くまで見通すことはできず、相手の姿を見つけることはできなかった。


 すると――


『忠告はした。去らぬなら――死ね!』


「ぐあッ!」


 森に響く声と同時に一人の男が崩れる。


 男の胸には光の矢が刺さり、役目を終えるとすぐに粒子となって消えた。


「あそこからか」


 男が立っていた場所と矢が刺さった箇所から逆算し、矢を放った場所を推測する。


 指揮官はひとりの兵に視線を向けた。


 その意図をアイコンタクトで理解したのか、頷いた。


「各部隊へ情報を伝えてきます!」


 そう言い残して一人の兵が小隊から立ち去る。


『……ッ!?』


 不穏な動きに気づいたのか、小隊から駆け出す兵に向かって光の矢が放たれた。


 残粒子を置き去りにして夜の闇に光の線が描かれる。


 光矢は男の背中に寸分の狂いもなく向かって行ったが、光矢は剣によって叩き落とされた。


「狙う者と放ってくる場所がわかっていれば、剣で矢を弾くぐらいは簡単だ」


 小隊の指揮官が剣を一振りして、遠くにいる姿の見えない相手に視線を向ける。


『チッ!』


 舌打ちの後、幾重もの矢が数度放たれるもすべて叩き落とした。


 射られる場所がわかるとはいえ、高速で放たれる光矢を何度も叩き落とせるものではない。


 それを可能であるほど、高いレベルで剣術を習得しているということだろう。


 数合の攻防を行うもすべてが防がれた。


 こののまま膠着状態が続くかに思われたが、変化は唐突に起きた。


『きゃッ!?』


 森に響き渡っていた声から悲鳴が聞こえた。


「やっと、捕まえたか」


 さっきまで光矢を斬っていた男は、剣を下げ臨戦態勢を解く。


「あともう一人か」


 先行部隊の指揮官を務めている男――ザーガスはそう呟いた。

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