第142話 ルダマン帝国の指揮官

 スティルド王国とルダマン帝国間の国境砦。


 ルダマン帝国に落とされてから三日が経っていた。


 この砦内にスティルド王国兵の姿はなく、すべてがルダマン帝国の兵士にすり替わっていた。


 スティルド王国の残像兵0。


 連絡兵として砦の外へ逃れた者もいなかった。


 砦から王都へ向けて間者を出す暇すら与えないほど鮮やかに行われたのだ。


 すべてザーガスの計略によって成された結果だ。


 だが、ザーガスにとってこの砦は通過点でしかない。


 ザーガスの狙いは、もちろんスティルド王国の王都を攻め落とすこと。


 そのためには、この砦から進軍するには、障害が多かった。


 幾重にも張り巡らされた防御に特化した都市が王都までの道のりに点在している。


 一つ一つを相手にしていたら、どれだけの兵力が必要になるか考えたくもない。


 帝国の全勢力を集中すれば、侵略することは可能だろう。


 だが、急速に勢力圏を広げてきたルダマン帝国には敵が多い。


 他国の注意を怠れば、その隙を狙われるのは必然だ。


 そこで、ザーガスが与えられた任務は別のルートを確立すること。


 スティルド王国もこの砦以外から侵攻してくる可能性を排除している。


 そのせいか、この砦から王都に向かう以外の領地は中小規模の町々があり、防壁もそこまで強固なものではないことを潜入させた者から確認済みだった。


 そして、一番死角が多かったのは森に接する領地。


 森には魔女がいるため、不可侵という印象が根付いている。


 そのおかげでこのルートが開通すれば、王都へ攻め込む直線ルートができる。


 王都への道のりにある町は中小規模ばかり。


 森の進軍なら攻め込むのにそこまで多くの兵は必要ないだろう。


「そのためにも、この森を支配している魔女を仕留める必要がある」


 ザーガスはそう呟き、部屋の外から見える多くのルダマン帝国兵たちを眺めた。


 この三日間で着々と兵は集まってきている。


「ザーガス隊長、部隊長たちが会議室に集まっています」


 ザーガスの腹心であるダルクが伝える。


「そうか。今、集まっている兵はどのぐらいだ」


「予定の9割がこの砦に集合しております」


「9割か。いい調子だ。今晩、作戦を実行する。全員に準備を進ませろ」


「はッ!」


 ダルクは一礼して部屋を退室する。


「さて、面倒な者たちを説き伏せるか」


 ザーガスはやれやれと首を左右に振って、部隊長たちが待つ会議室に向かった。


 会議室には、屈強な男たちがコの字型に並べられた席に座っていた。


 ここにいる者たちは帝都でそれなりの武勲を残している強者たちだ。


 しかし、ザーガス以上の地位を持つ者はこの会議室にはいない。


 数千人の兵力を指揮することを許されているザーガスに対して、ここにいる者たちが指揮できるのは良くて数百人。


 任されている軍の規模からしてザーガスとの格の差は歴然。


 だが、この者たちがザーガスを信頼しているわけではない。


 それなりの武勲を立てた経歴があることから、悪知恵を働かせる者もいる。


 それらをザーガスは御す必要があった。

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