第143話 作戦会議
「これはこれはザーガス隊長殿。砦の侵略お見事でございます」
ザーガスが席に着くなり立ち上がって一礼したのは、全体的に丸く太い男。
ダズマダと言う。
この男がこの会議室に集まった部隊長の中で一番の強者であり、悪知恵を働かせることを得意とする男だ。
一番信用できない男である。
「そういう御託はいい。会議を始めるぞ」
ザーガスはダズマダの相手をせず、会議を進めることにする。
「そうですね。会議を始めましょう」
ダズマダはそんなザーガスの対応に文句も言わず、頷いて腰を下ろした。
「ここに集まってもらったのは、スティルド王国への侵攻の道を拓くためだ。作戦内容は――」
ザーガスが話しを進めようとしたとき、挙手する者がいた。
ダズマダだ。
「すみませんが、その作戦は無茶なのではないかと。それよりも、この砦を落とすことができたのだから、我らの兵で王都へ進軍するべきだと進言させていただきます」
欲望にまみれた言葉。
だが、欲望を持っている者は一人ではなかった。
「そうですね。ダズマダ殿の言うとおりかと思います」
ダズマダに賛同する者がいた。
そして、ひとりが賛同し始めると、他の者も追随して賛成の意見を口にする。
「御二方の言う通りですな。森に挟まれ難攻不落となっていたこの砦を落とすことができたのですから、王都までの道は開けたのではないですか」
「たしかに。ここを占拠することができるのだから、扉は開かれたも同然でしょうな」
続々と賛同する者たちがいる中、ザーガスは内心でため息を吐いた。
(この馬鹿たちは計算もできないのか……)
召集時にこれからの作戦は事前に伝えてある。
しかし、その作戦に疑問を持つ者が多くいるようだ。
目先の戦果だけにしか目がいかない輩。
今までうまくやってこられたのは、ただただ運が良かっただけなのだろう。
ザーガスは再びため息を吐いてから、口を開いた。
「お前たちの意見は却下だ。作戦は変更しない。今晩、森を支配している魔女の討伐を行う」
ザーガスがバッサリとダズマダらの意見を切り捨てたが、ダズマダはまだ食い下がってくる。
「お言葉ですが、森の魔女を攻めたとしても、戦果はないに等しいと思います。それよりも、ここから近くの町に進軍した方が戦果を得ることができると思うのですが」
(戦果か……)
ダズマダは出世欲の塊だ。
目に見えた戦果が欲しいのだろう。
実際にこの砦を落としたのは、ザーガスが率いる部隊のみ。
砦への侵攻には参加していなかった。
ここまで来て、森の魔女を討伐するだけでは、あまりにも小さい戦果だと思っているようだ。
「戦果が欲しければ、くれてやろう。だが、それは森の魔女を討伐し、森に道を造ってからだ」
「だが、森に住んでいるのは、二人だけのようではないですか。こんなにも多くの部隊を用意する必要があるのでしょうか」
「それは、確実に森を手中に収めるためだ。どれだけ強くとも数には勝てない。そして、森を拓くことができれば、スティルド王国を我々のものとするのも時間の問題だ」
ザーガスは会議室の壁に貼られた地図を指差し、現在地とルダマン帝国の都市。さらには、スティルド王国の王都を順に指差す。
「もし、森に大部隊を行軍させることのできる道ができれば、王都へは一直線だ。間にある町は防衛力の低い中小規模のものばかり」
子供でもわかるように丁寧に教えるザーガス。
内心では、脳筋の馬鹿どもと叫びつつも、こいつらを使わなければ、確実性が下がることもわかっているため、説明に労力を惜しまなかった。
「これでわかっただろ。この森を我々のものにする重要性が」
この砦から王都に向かった際の被害想定も織り込んで伝えたことで、ダズマダたちは静かになった。
これで、さらに何かをいうのであれば、もうそいつはどうしようもない馬鹿だ。
そいつは、この作戦には必要なしと判断していいだろう。
ザーガスはそう思いつつ、ダズマダたちに視線を向けた。
幸か不幸か誰も反対意見を言う者はいなかった。
納得したようだ。
(もう少し、やる気に火を点けてやるか)
「もし、この森に道を開通させることができたら、お前たちに先陣を任せようと思う」
『なッ!?』
ザーガスの言葉に会議室にいる全員がザーガスに視線を向けた。
(わかりやすくて助かるな)
「ほ、本当かっ!」
前のめりになって聞いてくるダズマダ。
「ああ、この作戦が成功したとき、先陣の決定権は、私が持っている。だから、君たちに頼もうと思う」
ザーガスの言葉にダズマダたちの表情に喜色を浮かべる。
ザーガスの説明で明らかに先陣の者たちが戦果を上げやすい作戦だということを理解しているのだろう。
(本当に扱いやすいな)
ザーガスはそう思いつつも表情には出さず、会議を進める。
その後は、今晩に行われる作戦の内容を説明した。
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