第141話 本来の精霊術

 翌日。


 一晩の間に消耗した体力を回復することができた琉海は、家の中を散策していた。


 穏やかな時間が流れる森の家の中で琉海は本棚から一冊の本を抜く。


 その本は、昨日リーリアが読んでいた本だった。


 内容に興味を持ち、パラパラと捲っていく。


 記載している内容は属性を持つ精霊術についてだった。


 属性を持つ精霊術は術者の属性魔力と魔力、自然力を掛け合わせてマナを生成。


 その後、イメージを定着させ、現象化させる。


 様々な属性のイメージ方法なども記されており、入門書のような感じの内容だった。


「起きられたのですね」


 別の部屋からマルティアがやってきた。


「お体の調子はどうでしょうか?」


 琉海は自分の体に視線を向けてから――


「悪くないですね」


「それは良かったです」


 マルティアはそう言い終えると、琉海が持つ本に視線を向けた。


「属性精霊術に興味がありますか?」


「まあ、そうですね。使えなかった原因が改善されたみたいですから」


「そうですか。でしたら、少しだけお教えいたしましょうか」


「教えてもらえるなら、宜しくお願いします」


 琉海はマルティアの案内で家の外に出た。


 外の開けた場所で琉海はマルティアに属性精霊術を教わることになった。


「ルイ様は精霊術で身体強化を行うことができているように見られますので、基礎は問題ないでしょう。ただ、属性を持つ精霊術は、基礎とは比較にならないくらい高難易度の術になります。特に大事となるは、想像力です。魔術と違い、精霊術は想像したものを具現化することができるですが、このイメージが固まっていないとまともに発動することができません。できたとしても、使用したマナの量に見合わない威力しか持たないことが多いです」


「なるほど」


 エアリスに教えてもらったことがあった。


 魔法は術式に従って現象が起きる。


 つまり、魔法は術式にどういった現象を起こすか決められており、それに魔力を送ることで放つ。


 それに比べて、精霊術は様々な現象を想像することで自由な形で現象化させることができる。


「ですので、最初はイメージの固定から行っていくことが必要になります」


 マルティアはそう言って掌を上に向けた状態で手前に掲げる。


 そして、掌から水の玉を作り出した。


「このようにイメージがしっかりできて、属性魔力をマナ生成に混ぜることで可能になります。さらに――」


 マルティアは水の球体を変動させていく。


 綺麗な球体だったものが波打ち、崩れていく。


 そして、螺旋を描くように渦を巻いた。


「イメージが強固なものであれば、自由自在に動かすことができます」


 それから、マルティアは渦を巻いている水を岩に向けて投擲した。


 放たれた瞬間、螺旋を描いていたはずの水は針のように変化し、岩に穴を空けた。


「慣れてくると、このように放った後も変化せることができるようになります」


 マルティアの説明で琉海はある程度理解した。


 そして、自分でもできることを確信する。


 なぜなら、一回経験しているから。


 エアリスと結界から抜け出すときは、多くの微精霊たちが属性魔力の代わりをしてくれていたのだろうが、自分の属性魔力を感じることができている現状、それを代替にすることでできるとわかる。


 琉海はまず自分の掌を見つめ、マルティアが行ったように水の玉をイメージする。


 属性魔力を含んだマナを適度な容量を使用して、顕現させた。


「嘘……ッ!?」


 マルティアは琉海の手元に発現した現象を見て驚いた。


 琉海の掌には、綺麗な水の球体が生み出されていたのだ。


 さらに、琉海はマルティアがやっていたように螺旋を描かせ投擲し、岩に穴を空けるところまで再現してみせた。


「これは……すごいですね……」


 マルティアはあまりの習得の早さに驚嘆した。


「やっぱり、ルイならできると思ったのよね」


 マルティアの背後から声が聞こえてきた。


 エアリスだ。


「エアリス、おはよう」


 琉海は他の属性も試しているのか火と風を掌の上で発現させていた。


「…………ッ!?」


 琉海のおの姿を見て、マルティアはさらに目を見開いた。


「片方ずつに別々の属性を生み出すなんて……」


 教えたのはさっきなのだ。


 マルティアの経験上、教えてできるようになるまで数年の時間がかかるだろうと思っていた。


 しかも、同時に別々の属性を操ることができるようになるには、さらに数年。


 それも早くて数年だ。


 才能がなければ、一生扱うことができない者もいる。


「そんなに驚くことはないと思うわよ。ルイなら、このぐらいできて当然だもの」


 エアリスは自信満々にそう言った。


「さすがですね……」


 マルティアも信じられないと思いながらも、現実を受け止めることにした。

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