第140話 国境の砦

 琉海が激痛に苛まれていた頃。


 琉海たちが向かうはずだった国境付近の砦では、事態が収束していた。


 ただし、スティルド王国にとって悪い方向に。


「そいつで最後か?」


 一室の壁側中央の机に脚を乗せて椅子を傾けながら、男は言う。


 偉そうにふんぞり返る姿は、山賊か盗賊の親分のようだが、この男は名実ともに認められた騎士だ。


「はい。ザーガス隊長。こいつでこの砦にいたスティルド王国の者は最後です」


 男は姿勢を正し、直立で答える。


 男の傍らには、跪かされた男がいた。


 その男をザーガスという男は睥睨する。


「俺が最後だと……デブラ隊長はどうした!?」


 床に跪く男は叫ぶ。


「あれなら反撃してきたから、殺して塀の外に捨てた」


 男は口角を上げて言った。


「嘘を吐くな! デブラ隊長はシュライト家だぞ! あの方が負けるわけない!」


 跪いていた男は激怒して、立ち上がろうとするが、手足を拘束された状態では何もできない。


「シュライト家とやらがどんなものか知らないが、諦めの悪かった男なら殺してぼろ雑巾のように捨てた。生き残りはお前だけだ」


「貴様ッ!」


 跪かされた男は我慢の限界を迎え、近くで立っている男に体で体当たりをしようとする。


 しかし――


「黙らせろダルク」


 ダルクと呼ばれた男は跪く男の顔に蹴りを入れる。


「ぐッ……」


 顔面を蹴られ、床に倒れ伏す男。


「スティルド王国の奴らが森に魔女を配置したのだろ。魔女の情報を吐け」


「…………」


 ザーガスに問われるも、床に倒れ伏す男は答えようとしない。


 すると、ダルクが倒れている男に近づき、髪を掴み上げて無理矢理顔を上げさせた。


「ぐッ……」


「ザーガス隊長が質問しているんだ。答えろ」


 髪を強く引っ張られ、痛みに耐えかねた男は口を開く。


「ま、魔女は……スティルド王国とは関係ない。むしろ、お前らが配置したんだろ」


「なるほど、魔女は俺らルダマン帝国の人間だと。なるほどな」


 男の話しに頷くザーガス。


「有意義な回答だった。もう、そいつに用はない」


 ザーガスはダルクに蠅を払うかのように言った。


「わかりました。来い」


「くッ……」


 ダルクは男の襟首を掴んで連れていく。


 執務室で一人になったザーガス。


「あのスティルドの兵士は嘘を言ってなかった。スティルド王国の奴らが潜ませた魔女じゃないなら、あの魔女は誰の差し金だ」


 跪かせた男からの言葉に嘘はない。


 それは、自身の能力で確認済みだ。


 ザーガスは《トランサー》――相手の嘘を見抜く能力。


 その能力でスティルド王国の兵士が嘘を言っていないことはわかっている。


「スティルド王国に攻め込むには、森の魔女が邪魔だ。だが、それも時間の問題か」


 ザーガスが呟いていると、部屋に再び入ってくる者がいた。


「ザーカス隊長、先ほどの男の処分が完了しました」


 ダルクは腰元で腕を組み、報告する。


「わかった。なら、次だ。森に攻め込む。この砦にいる数じゃ、確実性に欠ける。加勢を依頼しておけ」


「そちらはもう終わっています。明日には約1500人の部隊が到着するかと」


 ザーガスの側近であるダルクはそう言った。


「さすがだな。なら、明日に作戦を進めることができそうだな」


 ダルクを褒めてザーカスは薄く笑った。


 この砦――スティルド王国の国境砦をルダマン帝国所属のザーカス・ディレン率いる部隊が攻め落とした。


 ルダマン帝国が攻め込んで生き残った数は1000。


 そのうち、森の探索で数百の犠牲を伴ったが、明日になれば2000の軍勢になる。


 探索で犠牲になった者は多かったが、先日1人だけ情報を持ち帰った部下がいた。


 森にいるのは女二人。


 明日の夜、最低限の人数をこの砦に残し、2000人の軍勢で押し寄せれば、どれだけ強くとも数の暴力に対抗できず陥落するだろう。


「明日のために準備を進めておけ」


「了解しました。準備を進めます」


 ダルクはそう言って部屋を出ていった。


「森を通れるようになれば、スティルド王国への進行速度は倍以上になるな」


 ザーガスは今後のことを想像して笑みを深める。

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