第127話 交渉と再度の成長
クリューカと静華は席に座り、店員に紅茶を頼んだ。
「それで、どうして王都に?」
「ギルドから依頼があってね。なんでも、変な薬が出回っているみたいで。別の町でその調査をしていたの。そしたら、その薬をバラまいている男が王都にいるっていう情報を掴んでここに来たんだよ」
「薬……?」
「ギルドの話だと身体能力を増強して力を強化する薬みたいね。でも、そんな簡単に強くなれるわけもない。副作用は理性の崩壊という噂よ。崩壊した奴は誰かれ構わず襲いかかって暴れ出す。私も服用した奴と遭遇したけど、面倒この上なかった」
クリューカの話を聞いて、静華は騎士武闘大会の予選決勝の時のことを思い出す。
決勝の会場に向かう途中で襲われた時のことだ。
あの時は琉海とエアリスで掃討してしまった。
しかし、静華から見てもあのならず者たちは普通ではなかったように思える。
少なくとも理性があるようには見えなかった。
クリューカが言っていたこととの共通点もあり、クリューカの探している薬をバラまいた者が王都にいたのかもしれないと静華は推測する。
「それで、シズカはどうして王都なんかに?」
静華の目的を知っているクリューカは声を少し強める。
静華が追っている二人がこの王都にいるのだろうかと、クリューカは推察したのだろう。
「それがね――」
静華はクリューカに説明した。
クリューカの元から離れ、榊原たちを追いかけたこと。
その道中で元の世界の人間である琉海と再会したこと。
そして、取り返すために追い続けたモノを取り戻したこと。
すべてを話した。
話を聞き終えたクリューカは体の力を抜き、椅子の背もたれに深く寄りかかる。
「そうか。取り戻せたか」
「うん。でも……」
頷く静華。
しかし、静華の歯切れは悪かった。
「どうかしたのか?」
クリューカが親身になって聞いてくる。
取り返したかったものは取り戻した。
思い人の傍にもいようと思えばいられる。
でも、足手まといになることをわかっていて、傍にい続けるのを自分自身が納得できていなかった。
エルフであり、長い月日を生きてきた彼女なら、琉海の背中を守るぐらい強くなる方法を知っているだろうか。
数秒の沈黙の後、静華は口を開いた。
「クリューカ。私にもう少し魔法を教えてくれない?」
静華の言葉にクリューカは沈黙した。
数瞬の間、クリューカと静華の視線が交錯する。
そして――
「私が教えられることは全部教えたつもりだ」
「まだ、足りないのよ。私はもっと強くなりたい。だから、私を鍛えて欲しい」
静華の焦った声にクリューカはため息を吐いた。
「ひとつだけ聞かせてもらっていいか」
「なに?」
「シズカはなんのために強くなりたい?」
「私が強くなりたいのは、好きな人の隣にいたいからよ」
「好きな人の隣にいるのに強さは必要ないんじゃないか?」
「必要よ。彼が往く道は強くないと足手まといになるわ。足手まといだけならまだマシかもしれない。私が原因で彼が死んでしまうかもしれない。私はそれを許せない。一緒に隣を歩けるぐらいになりたいの」
「その好きな人は一緒に行動している少年のことか」
クリューカに言われ、若干顔を赤らめる静華。
静華はここで誤魔化してもしょうがないと判断し正直に話す。
「ええ。私は彼の隣を歩きたい」
静華の真剣な思いが通じたのかクリューカはため息を零す。
「わかった。シズカを鍛え直してあげる」
「ほんと! ありがとう」
静華は喜びの表情を向ける。
「ただし、私からも条件がある。私の仕事を手伝ってもらうわ」
「ええ、それでいいわ」
「じゃあ、交渉成立」
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