第128話 予想外の来客者
クリューカとは、店から出て一旦分かれることになった。
静華は琉海にクリューカの元で魔法を鍛え直すことを伝えるために屋敷へと戻る。
屋敷に戻り、侍女に琉海の居場所を聞いて琉海が使用している部屋に向かった。
琉海がスタント公爵家に用意してもらった部屋に辿り着くと、中から話声が聞こえてきた。
「だから、あの
話の流れから琉海とエアリスがこの王都を出るときのことを話しているようだ。
「それでも――」
琉海が何かを言おうとしたとき、静華は扉を開けた。
扉が開かれると琉海とエアリス、二人の視線が静華に向く。
「お話し中のところちょっといいかしら」
琉海が頷く。
「私は、この王都に残ろうと思うわ」
静華の言葉に琉海は目を見開く。
「聞いていたんですか?」
「少しね」
琉海はバツが悪そうに顔をしかめる。
「でも、別に話声が聞こえてきたから言ったわけじゃないわ」
「どういうことですか?」
「私が王都に残るのは、強くなるため。さっき町で私に魔法を教えてくれた人とたまたま会ったの。その人に魔法を鍛え直してもらえることになったわ」
静華は自分の意志で王都に残ることを決心したと説明した。
ただ、その目的が琉海と一緒に歩んでいくためであることは明確には言わなかった。
琉海はずっと眉間に皺を寄せ悩んだ表情をしていたが――
「わかりました。静華先輩がそういうのでしたら、それを尊重します。ですが、気を付けてください。誰に狙われているかもわかりませんから」
榊原が再び襲ってくる可能性のことを言っているのだろう。
「わかっているわ」
静華もそれは考慮している。
「シズカがここに残るなら、もう一人の方はどうする気なの?」
エアリスに問われる琉海。
もう一人。
刀香のことを言っているのだろう。
彼女は王都に住む貴族である。
連れていくことは難しい。
「そのもう一人っていうのは、シズカと同じ異世界人なのかい? だったら、私が面倒をみてもいいぞ」
窓際から聞こえてくる声。
エアリスはすぐさま剣を《創造》して構える。
琉海も鋭い視線を向けてマナを纏う。
剣呑な雰囲気が流れる中、静華が前に出た。
「待って! 彼女は私の魔法を鍛え直してくれるエルフよ」
静華が止めに入ることで、エアリスと琉海から剣呑な雰囲気は消えていく。
「やれやれ、血気盛んな子たちだね」
エルフは窓際に腰かけて首を左右に振る。
「へえ、エルフなのね。あなた歳いくつかしら」
年上ぶったエルフの仕種にエアリスが興味深そうに聞く。
エアリスの人間化はかなりの精度なのか、魔法に長けているはずのエルフも惑わすほどらしい。
そのためかエルフの彼女はエアリスが精霊であることに気づいていないようだ。
「ん? 私は200歳とちょっとだが?」
「そうなの。私は300年以上生きているわ」
エアリスが勝ち誇ったかのように胸を張る。
「ほう。300年以上か。君は何者なのかな」
クリューカは気になったのか、エアリスをジッと見つめる。
「ふふ、あなた程度じゃ見破れないわよ」
教える気はないのか、エアリスはそう言って、ソファに寝転がってしまった。
「それより、なんでここにいるのよ」
静華がクリューカに聞く。
「魔法を鍛える場所を見つけたから、教えようと思ってね」
「そういうことじゃないわよ。ここは、スタント公爵家の屋敷なのよ」
「ああ、そういうことか。魔法だけでなく、気配を消すのも私は得意でね。忍び込ませてもらったよ」
「はあ、何てことしているのよ……」
静華は額に手をやり呆れていた。
屋敷に侵入しているがバレると話がややこしくなりそうだ。
話しを早く進めて騒ぎになる前に帰ってもらおうと思案する。
琉海も同じ考えのようで、クリューカに話しかけた。
「すみませんが、さっきの話に戻ってもいいでしょうか」
「ほう、君がシズカの言っていた少年か」
話しかけたことで、クリューカの注目を琉海に集めてしまった。
クリューカは琉海を頭からつま先まで流し見る。
「ふーん、魔力はあまり感じないが、なんか懐かしい感じがするね」
琉海にも興味を示しだすクリューカ。
琉海に顔を近づけていくクリューカに静華が咳払いをして止めた。
「ねえ、クリューカ。話を戻しましょう。私ともう一人も一緒に見てくれるって言っていたけど本当?」
静華の問いでクリューカは琉海から顔を離し、静華に視線を向けた。
「ああ、まだ、王都にはしばらくいるから大丈夫だよ。任せてくれたまえ」
クリューカはそう言ってくる。
静華はどうすると琉海に目線で問う。
琉海は逡巡するが、他に頼れる相手もいないので頷いた。
「わかりました。よろしくお願いします」
「ああ、任せてくれたまえ」
クリューカは快く承諾してくれた。
話しを進め、明日にでもクリューカをトウカに会わせることになった。
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