第126話 焦燥感・・・
少し、時間を遡る。
琉海とトウカとの面会が終わり、婚約がうやむやになった後。
静華は屋敷から出て町中を歩いていた。
目的は特にない。
ただ、気持ちを落ち着かせるため、散歩がてら歩いていた。
婚約の話を聞いたとき、静華の胸のあたりがズキッと痛んだ。
それが何を意味しているのかわかっている。
今も自分の感情が爆発して、琉海に迫ってしまいそうになるのを抑えていた。
好きであることを伝え、自分のことをちゃんと見て欲しいと思ってしまう。
そんな気持ちが過去の思い出を呼び覚ます。
中学時代のコンビニで絡まれたときに琉海が助けてくれた時だ。
宝物のような大切な記憶。
初恋の思い出。
彼はおそらく私が助けられたことを知らないだろう。
あの時、私が不良の男たちに絡まれそうになったとき、コンビニに入ろうとした琉海がぶつかって、標的が琉海になった。
険悪なムードになり、琉海に襲い掛かった不良たち。
しかし、琉海は苦もなくあっさり全員を倒してしまった。
幼いころから剣術を習っていた琉海にとっては、何も習得していない不良たちは敵ではなかったのだろう。
静華は琉海が囲まれている間にその場を離れた。
遠くで見た琉海の姿はかっこよかった。
その姿に憧れ、自分も強くなって、彼の隣に立てる女になりたいと思った。
それからは、色々なことをやるようになった。
その結果、高校では生徒会長となった。
だが、今の自分は彼の隣に立つどころか、足手まといでしかない。
このまま、彼と一緒に行動していたら、足枷になってしまう。
自分を庇って彼を失うかもしれない。
榊原の最後の攻撃はその光景を想起させるものだった。
「力が足りない……」
自分の弱さにイラつきを感じていると――
「ん、シズカじゃないか。久しぶりだな」
町中で手を振ってこちらに歩いてくる女性がいた。
近づいてくるのはエルフのクリューカだった。
「クリューカ?」
「こんな所でばったり会うなんてね」
「それはこっちのセリフよ。どうして王都にいるの?」
「王都には仕事でね。でも、なにやら騒がしいことになってるみたいだね」
クリューカが辺りを見回す。
昨日の王都襲撃の騒動で、まだ若干の不安や噂が飛び交っている。
しかし、それでも町の損害が少なかった。
そのおかげか、元の活気に戻るのにそんなに時間はかからないだろう。
「昨日の騒動のときからいたの?」
「いや、私はさっき王都に到着したばかりだ。騒動の内容はここに着いてから酒場の店主に少し話しを聞いただけだ」
「そうなの」
あれだけの騒動の中に彼女がいたら、魔法で援護をしてくれていただろうと静華は思う。
「それで仕事ってどんなことをしに来たの?」
「その話をする前に場所を変えよう」
クリューカはそう言って、近くのお店に入っていく。
飲食店のようだ。
静華もクリューカの後に付いて入った。
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