第122話 来客の目的

 翌日。


 スタント公爵家の屋敷に来客が来た。


 執事長であるアルディが扉を開けた。


 ドアの外にいたのは、一人の侍女だった。


「失礼いたします。シュライト侯爵家の侍女をしております。ミレルナと申します。ルイ様にお会いさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 ミレルナは綺麗な一礼をする。


「ええ、ルイ様からお話しは伺っております。こちらへどうぞ」


 アルディはミレルナと後ろにいる彼女を屋敷の中に入れ、琉海の元へ案内した。

 

    ***


 アルディが扉をノックする。


「ルイ様にお客様です。よろしいでしょうか」


「はい。どうぞ」


 室内から了承の声が聞こえて、アルディは扉を開いた。


 中に入るとアルディは扉の前で、ミレルナ達に中に入るように促す。


 最初に見えたのは、侍女のミレルナだった。


 琉海は思っていた人物ではなかったせいか、別のお客さんかと思ったが――


「失礼します」


 一礼して入ってきた彼女を見て、お客さんが想像通りの人だったと理解する。


 しかし――


「…………」


 琉海が思っていた以上に綺麗だった。


 トウカは淑やかな歩行で応接室に入室した。


 白を基調にしたドレスに茶色の髪は綺麗に結われ、軽く化粧もされているからか、唇も艶やかであった。


 昨日の夜会では、日本のときと変わらないポニーテールだったので、あまり違和感がなかったが、今日は明らかに違うように感じた。


 琉海があまりの変わりように呆気に取られていると――


「ルイ様。私は外で待機しておりますので、何かお申しつけがございましたら、仰ってください」


 アルディは一礼して速やかに扉を閉めた。


 アルディが間を繋いでくれたおかげで琉海は思考を正常に戻せた。


 執事長の気遣いの凄さを痛感した。


「こちらへどうぞ」


 琉海は自分の向かい側のソファに手を向けて案内する。


「失礼します」


 トウカは琉海の促した席に腰を下ろした。


 侍女服を着た女性――ミレルナはトウカの背後に立つ。


 琉海も多少は貴族社会を理解してきているため、そこはなにも言わない。


「それで今日はどういったご用件でしょうか?」


 琉海はトウカに話を向ける。


「えっとですね……」


 トウカは一瞬背後に立つ彼女に視線を向ける。


 ミレルナは一つ頷く。


「お話しと言うのは……縁談でして……」


「縁談……ですか?」


 琉海はオウム返しに聞く。


(また、貴族っぽい話が来たな。誰との縁談だろうか……)


 内心あまり喜べる話ではないなと感じつつ、話しを聞く。


「はい。その――」


 トウカは顔を徐々に赤くさせながら、一呼吸大きく吸って――


 声を発する。


「私と結婚してください!」


 一瞬の静寂が室内を支配した。


 琉海も彼女が何を言ったんだと思う。


 数瞬の間、思考が真っ白になり、徐々に彼女の声が脳に届き理解へと至るも――


「……はい?」


 そう答えることしかできなかった。


 さすがにこれだけではあんまりだと思い、話しを続ける。


「えっと、それは私と婚姻を結びたいと言うことでしょうか?」


「は、はい……」


 トウカは顔を真っ赤にさせながら、声が尻すぼみになりつつも答える。


 どうしたものかと琉海は天を仰いだ。

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