第120話 夜会
夜会の会場は、豪華絢爛の装飾が施されたホールとなっていた。
琉海は国王からの紹介で入場することになっているため、静華やエアリスはティニアたちと一緒に先に会場に入っていく。
琉海が入場の合図を待っていると、クレイシアがやってきた。
「あら、ここでお待ちですか?」
「ええ、呼ばれるまで、待っていて欲しいとのことでしたので」
「そうでしたか」
クレイシアは辺りを見て、首を傾げた。
「パートナーはいないのかしら?」
「パートナーですか?」
琉海は何を言っているのだろうかと首を傾げた。
「ええ、女性の付き添う人はいないのかしら?」
琉海はこのようなパーティーに女性のパートナーが必要なことを知らなかった。
「えっと……」
それに気づいた琉海はエアリス辺りを呼び戻すかと思ったのだが――
「せっかくですから、私に琉海様のパートナーを務めさせていただけませんか?」
一歩距離を縮めてくるクレイシア。
「いや、クレイシア王女殿下にパートナ―をやってもらうわけには――」
琉海が断ろうとしたとき、会場の方から、司会の声が聞こえてきた。
『長らくお待たせしました。これより、本来予定しておりました騎士武闘大会の祝勝会の夜会を行います。はじめにバルダス陛下よりお言葉をいただきます』
司会が進行を進め、バルダスが壇上に立って言葉を発する。
「今回の夜会は、毎年行われてきた騎士武闘大会の祝勝会だけではない。
もうすでに誰もが知っていることであろう。この王都は危機に瀕した。
しかし、その危機から救ってくれた英雄が現れた。
紹介しよう。
騎士武闘大会の優勝者にして、ドラゴンを単独で打ち倒した我が国の英雄ルイだ」
バルダスの紹介で琉海は入場を余儀なくされた。
会場は拍手で琉海の入場を待つ。
仕方ないと一人で歩き出そうとした琉海だったが、クレイシアが腕に手を絡めて抱き寄せてきた。
琉海が視線で離すように促すが、クレイシアはニコリと笑みを浮かべるだけだった。
力尽くで引き剥がすことはできるが、王女にそんなことをしたら別の面倒事が発生するのは目に見えている。
さらには、扉の前で侍女が「どうぞ」と手で行先を導く始末だ。
現状の琉海からしたら煽られているようにしか感じられない。
いい案が思いつかず、琉海は内心ため息を吐き、隣にクレイシアを連れて歩き出した。
拍手の中、姿を現す琉海。
その隣にクレイシア王女が一緒にいることで大勢の貴族たちが驚きを口にする。
「こ、これは……ッ!?」
「な、なんと……ッ!?」
「クレイシア王女殿下がどうして!?」
「いや、それよりも……」
クレイシア王女にアプローチをしていたのを知っている貴族たちは、ディバル公爵家の当主であるグラン・ディバルに視線を向ける。
グラン・ディバルは眉間に皺を寄せ鋭い眼光で琉海たちを睨みつつも、拍手の手は止めない。
その眼光に気づいた貴族たちはすぐさま視線を逸らした。
触らぬ神に祟りなしだ。
他の場所では、静華とティニアが口を揃えて『あっ!?』と声を出していたが、その表情から内心を理解できたのは、エリザぐらいだろうか。
やがて、琉海とクレイシアはバルダス国王のいる壇上に上がる。
クレイシアは琉海の腕から離れ、一歩後ろに下がった。
「此度の窮地を救ってくれたルイに感謝の意を表明する。そして、我は誓う。英雄ルイが窮地に陥った時には、必ず手を差し伸べることを」
バルダス国王は、この会場にいる貴族たちに琉海へ貸しがあることを公にした。
これで、国王が白を切ることはできなくなった。
まあ、国ぐるみで口裏を合わせられたら、この意味もなくなるが、そこまで貴族たちは一枚岩ではない。
表明することで、多少なりとも琉海への信頼を勝ち取ろうとバルダスは考えたのだろう。
「以上だ。今宵の夜会を存分に楽しむといい」
バルダスがそう締めると、貴族たちは動き出す。
琉海とコンタクトを取るために。
集まり出す貴族たちをクレイシアが順番に挨拶できるように整理してくれた。
手際よくやってくれたおかげか、スムーズに人が掃けていく。
普通なら、覚えられない顔と名前だが、琉海は瞬時に記憶する。
完全記憶能力のおかげだ。
次々と捌いていき、次第に琉海への挨拶は少なくなっていった。
やっと掃けてくれた貴族たちにため息を吐く。
(やっといなくなったか……)
日本にいたころでも社交界などとは無縁だった琉海。
異世界で貴族に囲まれる日が来るとは思っていなかった。
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