第115話 力不足

 謁見の間を退室した琉海は、女性文官の案内で王宮の客間に案内されていた。


「それにしても、なんかすごいことになってたわね」


 静華が琉海の横顔を見て言う。


 静華もドラゴンが強いことは、エルフのクリューカに聞いたことがある。


 幼竜ならエルフでも数百人でやっと倒せるかどうか。


 人間だと数万人いて倒せるかどうか。


 そんなドラゴンを倒してしまう琉海。


 静華はこの世界に来てクリューカと出会い、魔法を習得したが、琉海はそれ以上に強くなっていた。


 それを特に意識したのは、榊原と琉海が戦っていた時だ。


 静華には琉海の動きを追うことができなかった。


 気づいたら周囲が爆発して琉海が庇ってくれていた。


 気持ちを取り戻した静華は琉海にまた守られることを嬉しく思う反面、自分が足手まといになっているのが受け入れられないでいた。


 静華が口を開こうとしたとき、廊下の奥から駆けてくる人影があった。


「ルイ様!」


 走ってきたのはティニアだった。


 額に汗を滲ませているところを見るに急いでやってきたようだ。


「無事だったんですね!」


「ええ、私を含め、三人とも怪我はありませんよ」


 琉海は手を広げ、何ともないことを伝える。


「よかった……」


 ティニアは胸に手を当て一息吐いた。


「ご心配おかけしました」


 琉海が畏まって答えた。


 その後はこれからどうするのかと聞かれ、今後の予定を話した。


 王宮の客間に案内してもらい、今夜の夜会に参加することになっていると答えると、ティニアも夜会には参加するつもりのようだ。


 ティニアは琉海の無事を確かめたかっただけのようで、琉海の無事を確認できると、一旦家に戻って家族の無事を確認してくると言い残して行ってしまった。

 

     ***


 琉海たちが客間に案内されている頃。


 クレイシアは、これからの算段を考えていた。


「どうにかして、ルイ様と誰にも邪魔されない空間を作りたいわよね」


 現在は琉海の近くには、エアリスと静華の二人がいる。


「さて、どうしましょうか」


 考えるのが楽しくてしょうがないのか、小悪魔的に笑みを作る。


 すると、廊下の先で侍女の一人が大きな服を持って歩いていた。


「あら、そこのちょっと待ってもらえる」


 クレイシアが声をかけると、侍女が背筋をピンッと伸ばす。


「クレイシア殿下!」


 侍女は大きく一礼した。


「そのドレスはどうしたのかしら?」


「これは、お客様用に用意しているドレスです」


「お客様用ってことは、ルイ様と一緒にいたお二人のドレスということかしら?」


「はい。そうです。今夜の夜会のために、陛下から用意するように承っており、これから採寸を行って採寸に近いドレスを調整することになっています」


「ふーん、なるほどね……」


 クレイシアは、そう言ってから、侍女に一言二言伝えて仕事に戻した。

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