第116話 来客?
案内された客室は豪奢だった。
ふかふかのソファが三つと綺麗な装飾を施された机。
壁には、高価そうな絵画が飾られている。
侍女がカップとティーポットを用意して、紅茶を淹れてくれた。
紅茶のいい香りが部屋に充満する。
三人分が机に置かれ、静華とエアリスは優雅にそれを飲んでいた。
琉海も紅茶を飲んでいると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい。どうぞ」
琉海が入室を許可すると。
「失礼します」
そう言って数人の侍女が入ってきた。
「今夜の夜会で着るドレスの採寸をしたいのでお嬢様方お二人を先に案内させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
ここに案内されたときに女性の文官に言われていたので、三人とも服の採寸をすることは知っていた。
「どうしますか?」
まだ、休憩し始めたばかりだったため、琉海は二人に聞いた。
「私は構わないわよ」
「私もいいわよ」
静華とエアリスが頷いたので、琉海は了承した。
「わかりました。よろしくお願いします」
静華とエアリスはカップを置いて、侍女たちの案内で客間から退出した。
静かな部屋に一人になった琉海。
紅茶を飲みながら、久しぶりに一人でゆっくりしているなと思う。
この王都に来るまでエアリスとずっと一緒だったし、王都に来てからもティニアや静華、エアリスと一緒にいることが多かった。
しみじみと紅茶を楽しんでいるとノックする音が聞こえた。
「はい。どうぞ」
次は自分の採寸をするのだろうと思っていると、扉を開けたのはドレスを着た少女だった。
琉海たちと同じぐらいの歳だろうか。
「失礼いたします」
優雅に一礼する姿は高い教養を感じさせる。
一礼して顔を上げた瞬間、琉海は相手が誰であるか理解する。
今日の王との謁見時、参列していた一人。
王女であるクレイシア王女。
「お初にお目にかかります。琉海と申します」
琉海は立ち上がり一礼する。
「いえ、こちらこそ初めまして。クレイシア・スティルドと申します」
「えっと、なぜクレイシア王女殿下がこちらへ?」
「ふふ、ドラゴンを倒したスティルド王国の英雄と話してみたかったので、来てしまいました。お邪魔でしたか?」
首を軽く傾げて聞いてくるクレイシア。
王族と親しくなって悪いことはないが、親しくなりすぎるのも考え物だ。
下手に
それでも、王女の怒りを買うよりかはまだいいと思えた琉海は、当たり障りのないように答えた。
「いえ、そんなことはありませんよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
クレイシアはそう言って部屋に入り、扉を閉めた。
「こちらに座っても?」
「ええ、どうぞ」
「では、失礼しますね」
クレイシアはソファに腰を下ろした。
琉海もクレイシアが座ってから、ソファに座った。
「それにしても、若いですわね。もしよろしければ、歳を聞いても?」
「ええ、私は17歳です」
「あら、私の二つ上なのですね。その若さでドラゴンを倒してしまうなんてすごいですわ」
「たまたま運が良かっただけです」
「そんなことはありませんわ。あの魔力とドラゴンの炎を断ち切る一刀。最後の一太刀はあっという間でわからなかったぐらいですもの」
クレイシアの発言で琉海は目を細めた。
「見られていたのですか?」
「あら、言ってなかったかしら。王宮のエントランスから、あの会場が見えるのよ。すごかったわ」
あの戦いを見ていたようだ。
あの戦闘で使っていたのを魔力と解釈しているところを見るに、彼女は琉海が精霊術を使用しているとは思っていないようだ。
しかし、次の言葉に琉海はさらに警戒度を高くすることになる。
「それに、塀の外での賊との戦いぶりはすごかったですわ。私では、姿を捉えることができない速さで戦うお二人はまるで、勇者と悪者のようでしたわ」
「王宮にいらしたのですよね」
「ええ、王宮のエントランスから見ていましたわ」
王宮から榊原と戦った場所はかなり離れている。
精霊術で視覚を強化しても見えない距離だ。
それを見ることが彼女にはできたのか。
「よく見えましたね」
「ふふ、目がいいのが、私の唯一の特技なのよ」
「それは、すごいですね」
特技。
つまり、彼女もトランサーか。
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