第114話 王の心情

 琉海が謁見の間から退出すると、役職を任されている貴族たちは各々が会話を始めた。


 バルダス王の隣に立つ宰相もバルダス王にチラっと視線を向け、王の心情を探る。


 琉海に最大級の地位を与えようとした。


 しかし、それは拒否された。


 謁見している間は気持ちを抑えていても、内心どう思っているのかわからない。


 宰相はバルダスの表情から心情を読み取ろうとするが、バルダスは口角を吊り上げ笑っていた。


「陛下。よかったのですか?」


 表情だけでは、内心までは読み取れなかった宰相は、直接聞いてみた。


「何がだ?」


「その……聖十騎士の推薦を断られたことです」


 宰相は恐る恐る聞く。


「ふっ、真実を話していたようだしな。ドラゴンを一人で倒せるような者をこの国に縛ることもできんだろう。無理に縛れば、この国がどうなるかわからん」


「しかし、聖十騎士の地位を拒むとは……」


「彼はこの国の民ではないし、もっと言えばスタント公爵家の騎士という扱いだ。あそこが、あれほどの騎士を手放すとは思えんし、まあ、ダメ元で言ったようなものだ。気にする必要はない」


 宰相にそう言っていると、クレイシアがニコニコ笑顔でやってくる。


「お父様、どうでしたか?」


「まあ、様子見だな。だが、いつでもこの国に迎え入れることができるようには、準備しておくとしよう」


「それは、私の夫に迎えてもいいと言うことかしら?」


「できるなら、構わん。しかし、ライバルは多そうだぞ」


「ふふ、そっちの方が燃えますわ」


 淫靡な表情をする我が娘にバルダスは苦笑する。


 そして、こんな娘に狙われることになってしまった琉海に同情した。


「下手にかき回して、騒動を大きくするのだけはしないでくれ」


「わかっています。貴族間の争いほど面倒なことはありませんものね」


「わかっているならいい」


「では、私はこれで。これから忙しくなりそうなので」


 クレイシアはそう言って、謁見の間から退出した。


「お許しになられて良かったのですか?」


「構わん。それに、クレイシアと結ばれてもらったほうが国としてはメリットが大きい。成功すれば万々歳だ。まあ、そう簡単に行くとは思えんがな」


「はあ……」


「あの我が娘も節度はわきまえているはずだ。無理に深追いして印象を悪くしてしまうなんてことはないだろう。心配するな」


 宰相の返事が琉海への印象を悪くするのではという心配と勘違いしたバルダス王。


 宰相が心配したのは、王族が平民と婚姻してしまうことだった。


 宰相の思想もバルダス王の息子エリックに近い思想を持っている。


 断層女卑にして貴族中心の社会。


 強さは剣や武力でなく権力。


 どれだけ強い人間でも、権力に逆らえるものは少ない。


 バルダス王が強い者を好むため、重々承知ではいるのだが、やはり良い思いはしなかった。


「時間はかかるだろうから、見守ってやれ」


「わかりました。仰せのままに」


 宰相はバルダスに一礼し、それに従う姿勢を見せた。

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