第113話 謁見

 女性文官に案内された場所は謁見の間だった。


 王が何かを公的に行う場合に使用する場所だ。


「こちらからお入りください」


 大きい扉の前に立たされた琉海。


 琉海が待っていると、内側から両開きの大扉が開かれた。


 高い天井。


 赤い絨毯。


 その先の豪奢な椅子に座るのは、バルダス・スティルド王。


 琉海はゆっくりと歩を進める。


 バルダスの横に立つのは一人の老人。


 彼は王の次に偉い宰相のようだ。


 バルダスから少し離れたところでは、エリック殿下。そして、逆側にクレイシアがいる。


 他にも何かしらの役職を任されているのだろうと思われる人が十数人。


 皆、身綺麗な服装をしており、上級貴族であることがわかる。


 琉海はある程度進むと片膝を突いて顔を俯かせた。


「面を上げよ」


 王に言われ、琉海は顔を上げる。


「私は無駄話をする気はない。単刀直入に聞く。あの闘技場に姿を現したドラゴンを始末したのはお前か?」


 バルダスの言葉にどう答えるか迷う琉海。


 一瞬、琉海は王女の隣に立つ男に視線を向ける。


 クレイシアの隣には、鎧を着たグランゾアが直立していた。


 もし、彼がいなかったら琉海も自分ではないと否定していただろう。


 しかし、あの場所にいた者がこの場にいては、否定もしづらい。


 否定したところで、王がグランゾアに聞いてしまえば、王に嘘を吐いたことになる。


 面倒なことになるのはわかりきっている。


 琉海はグランゾアの隣で微笑んでいるクレイシアには気づかず、この場をどうやり過ごすか考える。


 そして、数秒の黙考を終えて口を開いた。


「はい。私が倒しました」


 琉海が頷いたことで、周りの人間がざわつく。


 王の前だからこれだけで済んでいるのだろうが、小声で会話をする者が出る始末。


「静粛に!」


 それを宰相が一言放つことで黙らせた。


「そうか。なら、その働きを認め、貴殿に聖十騎士の地位を与える。また、褒賞は別に用意しよう」


 バルダスの言葉に他の者たちが驚く。


 琉海がドラゴンを倒したことを認めたときより大きいかもしれない。


 だが、まだ話は終わっていない。


 琉海は一礼してから――


「申し訳ありませんが、その地位はお受けできません」


「「「「なッ!?」」」」


 まさかの拒否に周囲の貴族たちが一気に琉海へ視線が集まる。


 聖十騎士。


 なりたくてなれる地位ではない。


 戦時では王の次に権力を持つと言っても過言ではない地位だ。


 もらえるというなら、すぐにでも欲しいと思うもの。


 拒否されたことにバルダスは片眉を上げた。


「ほう、理由を聞いてもいいか?」


「私は現在人を探していまして、その道中です。地位を持つということは、この国を離れることができなくなります。ですから、先ほどのお話を受けるわけにはいきません」


 バルダスは琉海を見る。


 その視線は鋭く、何かを見透かそうとする目にも見えた。


 バルダスは数瞬後、ため息を吐き「なるほど、真のようだな」と呟いた。


「では、別の褒賞は受け取られよ。金貨百万枚だ。我が国の窮地を救った者に何も無しで帰すわけにはいかないからな。それと、騎士武闘大会の優勝者として、貴殿には、私へ一つ願いを言う権利がある。申してみろ」


 そんな特典があるとは知らなかった琉海。


 だが、現状、王様に頼みたいことはなかった。


 攫われたアンリはスタント家が探してくれている。


 スタント公爵家が調べてわからなかったら、この国にいないとみて間違いないだろう。


 それをわざわざ王に頼むのも違う。


 他に願いがあるかと言われれば、この世界から帰る方法を見つけておきたいとも思うが、それをこの王様が叶えることができるかもわからない。


 つまり――


「そうですね。今は特にありません」


 琉海の答えにバルダスの目つきが鋭くなる。


「ほう。つまり、貸しにしておくということか」


「はい。そうしていただけると」


 バルダスは口角を上げて笑った。


「くっくく、いいだろう。騎士武闘大会優勝者ルイへの褒賞は貸し一つとする。何かあったときは、この私を頼れ」


「ありがとうございます」


 琉海は一礼した。


「ルイよ。今夜はささやかな式典がある。貴殿を今大会の優勝者であり、わが国を救った功労者として紹介しようと思う。出席されよ」


「わかりました」


 これにて琉海とバルダス王との初めての謁見は無事終わった。

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