第112話 国王の思惑

 王宮の一室では、王宮の主にして国王であるバルダス・スティルド王がソファに深く腰を下ろしていた。


 バルダス王の後ろには、実の息子のエリック殿下。


 そして、バルダス王の眼前にはクレイシア王女が座っていた。


「それで、今の話は本当なのか?」


「はい、本当です。お父様」


 クレイシアは頷いた。


「突然現れたドラゴンにひとり立ち向かうルイ様の姿は、紛うことなき勇者でした」


 クレイシアは喜々として話す。


 目を輝かせて、琉海の英雄譚を話すクレイシアは夢見る乙女のようだ。


 だが、エリックはクレイシアの話が本当だとは思っていないのか。


「なんかの間違いだろ。ドラゴンをひとりで倒すなんて。そんなことできるはずがない。まして、勇者であったとしても、少数の集団(パーティー)を組んで倒せるかどうかの相手だ。それを一人でなんて戯言とした思えないな」


 エリックの物言いにクレイシアは顔をムッとさせる。


「お兄様は見てないからわからないのです。彼は本物ですわ。尻尾は一瞬のうちに断ち切り、ドラゴンの炎を剣の一振りでかき消し、あっという間に首を落としてしまうのですから。そんな彼を放っておくなんてありえませんわ」


「だか、奴は貴族ではない。平民だ。それを聖十せいてん騎士にするなど、もってのほかだ」


 聖十騎士。


 それはこのスティルド王国に存在する最強の十騎士。


 各国境にある砦を守護している者たちでもある。


 この者たちは軍事の際は、国王に次ぐ命令権を有し、王国を守護する使命が課せられる。


 だが、それは強い者ではなくてはならない。


 強くない者に付いて行こうと思う者はいないからだ。


 特にスティルド王国ではそれが顕著だ。


 ただ、聖十騎士は現在9人。


 空席がひとつある状態だ。


 内部事情を知っている者は、今回の騎士武闘大会が聖十騎士を決める大会でもあったことを薄々気づいていただろう。


 バルダス王も任命するひとつの指標としては考えていた。


 だが、十中八九グランゾアがその席に座ると予想もしていた。


 そこに現れたひとりの少年。


 彼の強さは武闘大会でしか見ていないが、グランゾアを凌ぐほど強いことは立証されている。


 さてどうしたものかと、バルダスは思考しつつ、まだ、クレイシアとエリックの言い合いが続いているのをバルダスが口を挟む形で黙らせた。


「まあ、それも本人に聞いてからだ。人となりを知らなければ、選ぶこともできん」


「お父様、まさか本気であの平民を聖十騎士に推薦するおつもりですか」


 エリックが食ってかかる。


「だから、それも本人と会ってからだ。会ってみて、本当にドラゴンをひとりで倒したというのであれば、考えんこともない。なんせ、聖十騎士とはいえドラゴンをひとりで倒せる者はいないからな」


「ですが――」


「くどいぞ。エリック」


 エリックの言葉をバルダスは鋭い眼力で黙らせた。


「私が会ってから決めると言ったのだ。これは決定事項だ」


 バルダスの言葉にクレイシアは胸を張り、ふふんと顔をほころばせる。


 エリックは苦虫を噛み潰した表情をしつつも、大人しく言うことを聞いた。


「わかりました」


 エリックはそう言い、部屋を退出した。


 エリックが退出した後に残った二人。


「お前は賢いのだから、もう少しエリックを慮ってやってもいいと思うが」


「兄様の思想は危なすぎますわ。放っておくと貴重な人材がいなくなってしまうもの」


 クレイシア微笑みながら、そう言う。


「ほどほどにしてやれ」


 バルダスは無駄だろうと思いながらも、釘を刺しておく。


「では、私も先に退出させてもらいますわ」


「何を考えているつもりだ?」


「未来の夫を英雄とさせるために少々準備をしてきますわ」


 クレイシアは一礼して部屋を退出した。


「やれやれ、我が娘ながら恐ろしい娘に育ったものだ」


 バルダスは苦笑いを浮かべ、琉海の到着を待った。

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