第107話 琉海VS榊原
「けほけほ」
エアリスは咳込み、掴まれていた首を擦る。
「大丈夫か」
「お、遅いわよ」
「悪い。これでも急いで来たんだ。にしても、こっぴどくやられたな」
「マナ切れだったのと、なぜか粒子化できなかったわ」
ボロボロのドレスはギリギリ役目を果たしているが、エアリスは恥ずかしそうに腕で胸を隠した。
粒子化。
エアリスは精霊だ。
精霊は本来実体がない。
上級の精霊になれば、人間と意思疎通を取るために人間の姿を模すこともあるが、精霊は形を持たないのが、普通だ。
エアリスも人間には視認できない微粒子となって空気に漂うこともできる。
それが、できなかったということは何かされたのだろうか。
「なるほど。色々と聞きたいことがあるけど、それはあいつに聞けばいいか」
語気を強めて琉海は榊原に視線を向けた。
視線の先にいる榊原は異様だった。
さっき琉海が斬ったドラゴンと同じ存在感を放ちながら、人間の姿をしている。
あのドラゴンと同じ存在感。
それは、魔物と同じ存在であるということ。
もっと言えば、魔薬を服用し、暴走して魔物へと変質した存在。
自然力を無尽蔵に吸収し続けている榊原は、それだけで異質であることがわかる。
だが、魔物ではなく、人間の姿をしている。
魔薬を服用したにも関わらず自我を保ち、魔物にも変質することなく、人間でい続けている。
初めて会った存在だった。
「あんたは何者だ?」
「それに答えたら、見逃してくれるのか?」
琉海の問いに、榊原は答える。
「それはないな」
「そうかい。じゃあ、俺も答えることはできないな」
榊原と琉海に間に無音の空気が流れる。
静寂を破ったのは榊原だった。
「あのドラゴンじゃ、足止めにもならなかったか。もう少しがんばってもらいたかったんだけどな」
榊原はそう言ってため息を吐く。
「仕方ない。あの精霊の回収は諦めるか」
小さく呟くと榊原の姿が消えた。
だが、琉海はその動きを見逃さない。
剣を《創造》し、覚えたての武器強化(エンチャント)で剣にマナを纏わせ――
一閃。
不可視の斬撃が榊原の背中を襲う。
「チッ!」
榊原は舌打ちをして、大きく横に跳んだ。
榊原の横を無慈悲な風が横切る。
躱したときにはすでに琉海が接近している。
「逃がすか」
琉海は刀身が粉々になった剣を放り、新たに剣を生み出す。
「面倒な能力だな」
榊原は近寄られたくないのか、火球で牽制。
その間に距離を開ける。
火球は琉海を襲うが難無く剣で斬った。
真っ二つにされた火球は後方で爆発する。
「牽制にもならないか」
榊原の魔法を打ち砕き、接近する琉海。
近距離で榊原が琉海に勝つことは無理に近い。
それだけスペックが違った。
「チっ! 仕方ない。必要な代償か」
榊原はまた舌打ちをしてから後ろに下がるのをやめた。
距離を詰めてくる琉海に対し、榊原も前進して二人の距離を狭める。
「…………ッ!」
突然の動きの変化に琉海も片眉を上げた。
間合いに飛び込んでくる榊原に琉海は剣を合わせる。
生かして捕らえることができれば、色々と情報を聞き出せるかもしれない。
しかし、加減をして勝てる相手ではない。
加減なしの一振り。
瞬速の剣速を持って榊原を斬った。
そう――
斬ったかに思えた。
しかし、琉海の眼前にあるのは、榊原の左腕。
左腕が宙を舞っていた。
斬ったのは、左腕だけだったようだ。
琉海はすぐさま本体を探す。
だが、その左腕がそれを妨げた。
左腕に装着していたブレスレットが光を放つ。
その瞬間――
大爆発を引き起こされた。
辺り一帯を吹き飛ばすほどの威力。
近距離で巻き込まれた琉海。
辺り一帯が黒煙に包まれた。
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