第71話 二日目
翌日。
騎士武闘大会の二日目が始まる。
本選出場を賭けた予選準決勝と決勝が行われる日だ。
準決勝は小さいコロシアムでの試合。
『本日二日目。予選準決勝の試合が行われる。最初の試合は、グラム男爵家代表のテムジン・ラファエロだ。ここまでの試合では、冷静沈着な試合運びで相手の隙を逃さず決めてきている』
舞台に銀白の鎧を着た青年が登場する。
歓声が起こり、それに応えるように手を振るテムジン。
日本人が見たら、ハンサムな西洋風の騎士に見えるだろう。
彼も名のある騎士団で戦績を積んでいる強者のようだ。
『そして、白銀の騎士に挑むは、ここまでの二試合をなんと一撃で終わらせてきた少年。スタント公爵家代表のルイだ!』
力の入った司会者の言葉が終わると琉海が舞台に登場した。
すると、大歓声が琉海を包み込んだ。
周囲一帯が歓声の嵐となる。
「いけ!」
「やれ!」
「テムジンも一撃だ!」
数多の声援が琉海に向けられていた。
『さあ、両者が出揃ったので、オッズを見てみよう。なんと、テムジンが100倍! そして、ルイは1.3倍だ! おいおい、これじゃ賭けになんねえぞ。誰か、テムジンに入れてやれ。まあ、無理か。二試合とも一撃で勝利している奴と比べたらな』
司会者の琉海贔屓がひどい。
テムジンと琉海が中央である程度の距離を開けて立ち止まる。
「君は人気のようだね。まさか、僕がオッズ100倍なんて経験するとは。初めての経験だよ」
にこやかに笑みを作るテムジン。
爽やかハンサムと言ったところだろうか。
「別にオッズは強さに関係ないと思いますけど」
「確かに、そうかもしれないね。でも、勝利を期待されているのが、どちらなのかは明白になる。この試合は君が勝つことを求められているようだ。まあ、勝ちを譲る気はさらさらないけどね」
テムジンはそう言って、腰に差している剣を鞘から抜く。
剣はブロードソード。
正眼に構えて琉海を待ち受ける。
琉海も無手で構えを取った。
「噂に聞いていたが、本当に素手で戦う気なのか」
「…………」
テムジンの質問に琉海は沈黙で返す。
前の二試合でも同じようなことを言われて答え、逆ギレされてきた。
わざわざ答える必要もないだろう。
「そうか。だんまりか。まあいい。後悔するなよ」
お決まりのようなセリフを言い放つテムジン。
それは「負けフラグだぞ」と内心思いながら審判の合図を待つ。
テムジンと琉海が構えたのを確認すると、審判が前に出てきた。
「それでは――はじめッ!」
審判の合図で先に動いたのは、琉海だった。
精霊術の身体強化で距離を一瞬で潰す。
「なッ!」
眼前に現れた琉海に驚きを露わにするテムジン。
琉海は一気に勝負を決めるべく、腹部への掌底を放とうとした。
しかし、驚きつつも、テムジンの体は防御体勢を取る。
琉海の狙いを察知したのかブロードソードが盾のように阻んだ。
そんなものでは、精霊術で強化した威力には対抗できない。
だが、このまま掌底を放てば、剣の破片がテムジンに刺さり殺す危険性もあった。
琉海はすぐさま標的を変更。
回し蹴りで剣を持つ腕を強襲した。
「ぐッ!?」
剣はテムジンの手から離れ、高らかに舞う。
腕ごと剣を蹴り飛ばされたテムジンの体は横に流れた。
そこを琉海は逃さず腹部へ掌底を放つ。
完璧に鳩尾に入り、意識を刈り取った。
白目を剥いて吹き飛ぶテムジン。
壁にぶつかり空を舞っていた剣が地面に突き刺さる。
すぐに審判が近寄り、確認を取った。
「勝者、ルイ」
審判が琉海の勝利を告げると――
『決まったああああぁぁぁ!!』
司会者の声と観客の歓声が同時に轟く。
『テムジンすらも圧倒。さすがに一撃とはいかなかったようだが、圧倒的強さで瞬殺! これでルイは予選決勝進出だ!』
『今回は二撃でテムジンを倒しちまった。こりゃやばいダークホースを連れてきたなスタント公爵家。さあ、予選決勝はあの大会場だ』
司会者がまだ色々と騒いでいるが、琉海は舞台を後にした。
舞台を降りて、会場の外に出ると静華、エアリス、ティニアやアンジュ、メイリの面々が集まっていた。
「ルイ様、決勝進出おめでとうございます」
ティニアが一礼すると、アンジュとメイリも同じように一礼した。
「ありがとうございます」
「大会場までは馬車でお送りしますので、乗ってください」
ティニアが後方にある馬車を手で指し示す。
ここから、一番大きいコロシアムまでは、距離がある。
歩いて行ってもいいのだが、せっかくなので、琉海は馬車で向かうことにした。
「色々とありがとうございます」
「いえ、私がお願いして出ていただいているので、私にできることは、協力いたします」
ティニアはそう言って、若干顔を赤くする。
「それでは、お言葉に甘えて馬車に乗らせていただきます」
琉海たちは馬車に乗って大会場へ向かった。
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