第70話 ホルス騎士団の部隊長たち
王宮内でも騎士武闘大会の会話は盛んに行われていた。
王宮内を歩く貴族や高官、侍女や執事までもが、一日目を終了した騎士武闘大会の話をしていた。
中でもコロシアムで圧倒的勝利してみせた三人。
ホルス騎士団の隊長たちが話題の種になっていた。
王宮から見えるという立地条件のおかげとも言えるかもしれない。
仕事の合間に試合風景を見ていたのだろう。
熱を帯びた会話をする者たちも多かった。
そんな話題に上がっている三人は、王宮のある一室で酒を飲みながら談笑をしていた。
「今年も予選に目ぼしい相手はいなさそうだな」
眼鏡をかけた男が酒を口に含みながら言う。
「まあ、予選だからな。王の計らいで予選では強者と当たらないようにしてくれているのだろう」
三人の中でひときわガタイのいい男はそう言う。
王の威光を示すための催し物なのだから、わざわざホルス騎士団での同士討ちをさせる必要はないのだ。
王や王族関係の配下にいる騎士たちは、本選へ勝ち抜けやすい組み合わせになっているのは、仕方がなかった。
そのおかげか、ホルス騎士団の隊長の面々が予選で当たることもない。
「イロフもグランゾアの旦那もつまらなそうだな」
シェイカーは酒を飲む。
「その言い方だと、お前のところには、面白い奴でもいるのか?」
眼鏡をかけた男――イロフはシェイカーに聞く。
「まあな、スタント公爵家の代表として出てる奴がいる。順調に行けば、予選の決勝で当たることになる」
「ああ、あれか。お前の洗礼に耐えたとかいう奴か。俺たちは別件の用で行けなかったから、見てないんだが、どんな奴なんだ?」
ガタイのいい大男――グランゾアは昨日の出来事が噂になっており、そんな話を聞いたなと思い出す。
「どんな奴ねえ。まあ、紳士ぶっている感じの奴かな。強いかどうかはわからないけど、俺の強化魔法に付いて来れるほど、魔力制御能力は高いみたいだな」
「魔力量ではなく、魔力制御か」
シェイカーの言い方にイロフは眼鏡のブリッジを指で押し上げて聞き返す。
「ああ、どう視ても魔力はそこまで高くなかったからな。おそらく、すべての魔力を無駄なく強化魔法に変換できるだけの制御能力が高いとみて間違いないだろう」
「なるほど、それは面白そうだな。だが、面白いからと言って遊び過ぎて負けるなんてことがあってはならないからな」
グランゾアはシェイカーの説明を聞き、納得するも釘を刺す。
「わかっているよ。俺らがこの立場でいられるのも、この大会や戦場で戦果を残しているからだってことは」
シェイカーはそう言って、グラスに入っている酒を飲み干す。
「わかっているならいい。俺たちが最高武力としてこの国に存在していなければ、居場所はないんだからな」
グランゾアの言葉に他二人は頷いていた。
ホルス騎士団は、少数精鋭の騎士団であるが、そのほとんどは元傭兵で構成されている。
そして、この三人も元傭兵上がりである。
唯一、貴族なのか平民なのかわからないのは団長のみ。
七年前の騎士武闘大会で優勝したグランゾアはホルス騎士団に入団した。
その時、グランゾアは優勝者として自分が率いていた傭兵団も国で雇用できないか交渉し、承諾してもらった。
その傭兵団にはイロフとシェイカーもその傭兵団に所属していた。
これも優勝者という功績があってこそだ。
彼らを仮雇用からホルス騎士団の正式に入団するまでもかなりの戦場を経験し、生き残ってきた。
ホルス騎士団の団長がスティルド王国を守るためなら、使えるものは何でも使うという性格と相性が良かったのは幸いだった。
ホルス騎士団のほとんどが元傭兵であることを知る者は高名な貴族たちと王しか知らない。
そして、知っている者たちは血を重んじる人種も少なからずいる。
優勝者という肩書と今までの戦場での功績がなければ、どこかの貴族にホルス騎士団は利用され、食い潰されていただろう。
唯一救いなのは、王が血よりも力を重んじる傾向であることだろうか。
グランゾアたちはそれを理解している。
証明し続けなければならないのだと。
傭兵となって戦場を駆け回るのもいいが、この暮らしを知ってしまっては、戻ることはできない。
強いことを証明し続けるだけで、戦場にも困らず、金にも困らず、女にも困らない。
こんな世界を知ってしまっては、後戻りなんてできない。
「気は抜くなよ」
イロフもシェイカーに注意を促す。
「わかっているよ。それに、俺は旦那以外に負ける気はねえからよ」
シェイカーは自信満々に言う。
去年の大会では、決勝戦でグランゾアに負けて準優勝の結果になったシェイカー。
「それに、旦那へのリベンジも忘れてないからな」
シェイカーがグランゾアに指を差して宣戦布告する。
イロフもグランゾアもその行動に口元に笑みを浮かべた。
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