第63話 琉海の評価

 王宮に向かう通路を歩く男女――リオナとイブラスだ。


「彼はどうだったかしら?」


 リオナがイブラスへさっき会った琉海の評価を聞く。


「見た感じ、そこまでの手練れのようには見えませんでした。線は細く、力があるわけでもなさそうですし、剣を振ってきた腕にも見えませんでした。魔力もそこまで高いようには感じませんでしたね」


「じゃあ、強力な能力を持ったトランサーなのかしら」


「その可能性の方が高いかと思われます」


「でも、それじゃあ勝つのは難しいんじゃない」


「はい。おそらくあの少年が本選に上がるのは難しいでしょう」


「そう。ティニアはどうするのかしら」


「リオナ様。不躾ですが、もし、ティニア様が没落することがあったとしても、手を貸すようなことはないようにお願いしますよ。エスカレッド家が巻き込まれる可能性があるのですから」


「わ、わかっているわよ」


 リオナはしどろもどろになって答える。


 イブラスは目を細くする。


「本当にですか?」


「そ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。それより、イブラスこそ大会のほうは大丈

夫なの?」


「私は心配ありません。まあ、予選の決勝は苦戦するかもしれませんが、そこまでは問題なく勝てるでしょう」


「そう。ならいいのよ。頑張ってね」


「はい。ご期待に応えられるよう努めさせていただきます」


 イブラスとリオナはその後も大会の話をしながら、王宮へと向かった。


     ***


 メイリに案内されて王宮の会場に辿り着いた琉海たち。


 会場内は豪華絢爛のホールになっており、立食形式で様々な人が会話をしていた。


 ここに集まっているのは、騎士武闘大会に出場する者と貴族だけ。


 それでもかなりの人数が集まっていた。


 あまりの場違い感に琉海はどうすればいいのかわからず、ただ立っている。


 エアリスは真っ先に食べ物を取りに行ってしまい、静華はグラスを持って優雅に飲んでいる。


 静華は元の世界では大企業の社長令嬢だったから、こういう場にも慣れているのかもしれない。


 手持ち無沙汰になっている琉海を気にしてティニアが近づいてきた。


「ルイ様、お飲み物をどうぞ」


「あ、すみません」


 琉海はティニアからグラスを受け取って一口飲んだ。


「こういう場は慣れていないみたいですね」


「え、ええ、こういうのは、初めての経験ですね」


「引っ張り出すような形になってしまい、申し訳ありません」


「いえ、気にしないでください」


 ティニアと話していると、一人の男性が近づいてきた。


「やあ、ティニアじゃないか」


 金髪の男。


 雰囲気から貴族だろうか。


「あら、レイモンドさん。お久しぶりです」


 ティニアは前に出て軽くお辞儀をした。


「ああ、久しぶり」


 レイモンドは軽く手を上げるだけだった。


 琉海が誰だろうかと思っていると、ティニアに付き添っていたメイドのメイリが隣

に来て耳打ちしてくれる。


「あの方はレイモンド・ディバル様です。ディバル公爵家の嫡男です。ディバル公爵家は、このスティルド王国で王に次ぐ権力を持っていまして、現在ティニア様の婚約者候補です」


「婚約者候補?」


「はい。ティニア様も一人娘なので、婿養子を募っていまして。その筆頭となるのがレイモンド様になります」


(なるほど、政略結婚というやつなのだろう)


「ですが、ティニア様もエリザ様もあまり乗り気ではないみたいです」


「へえ、どうしてですか?」


 権力もある。


 顔もイケメンの類だろう。


 パッと見た感じ、悪そうなところはないと思われる。


「まあ、そこは性格の問題でしょうか。レイモンド様は、独占欲が強すぎるところがあるみたいで、あまりいい評判は聞かないのです」


(独占欲が強いね~)


 琉海の頭の中では、日本にあったファンタジー映画や小説などに登場する性格の悪い貴族が想像できた。


 絵に描いたような性格の悪い貴族ってことなのだろう。


「ただ、断るには相手の権力が強いため、慎重に事を運ぶ必要がありまして、現状は婚約者候補の筆頭ということになっています」


 それは大変そうだなと思う琉海。

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