第62話 騎士武闘大会開催!

「それにしても、どこの貴族がこのようなことをしたのでしょう」


 アンジュが組み合わせ表を見ながら、呟く。


「さあね。私たちも敵は多いだろうから」


 いくら考えても答えは出ないと思ったのか、ティニアはこの話をやめることにした。


「それじゃ、私たちも王宮へ行きましょう」


 ティニアが立ち上がると、メイリが扉を開けた。


 ティニア、アンジュ、琉海、静華、エアリスの順で部屋から出た。


 すると――


「あら、ここで会うなんて、珍しいわね」


 ティニアに話しかけてきた少女がいた。


 見た目と雰囲気からティニアと同じぐらいの歳だろうか。


 赤毛を伸ばした小柄の少女。


 ドレスを着ているということは、これから王宮で開かれる前夜祭に出るのだろう。


 つまり、彼女も貴族ということだ。


 その後ろには、黒服を着た執事のような男がいた。


「何が、『珍しいわね』よ。リオナのことだから、どうせ、待っていたんでしょ」


「ち、違うわよ!」


 ティニアの言葉に顔を赤くして反論するリオナ。


 人柄を知らない琉海でも「ああ、待ってたんだ」と思ってしまうほどのわかりやすさだった。


 リオナは一度咳払いをしてから口を開く。


「そ、それよりも、ティニアは武闘騎士大会にアンジュは出さないのね」


 リオナがアンジュに視線を向けた。


「私にはティニア様をお守りする使命がありますので」


「相変わらず、硬いのね」


 リオナはため息混じりに言う。


「じゃあ、あのルイっていう出場者は、アンジュの部下かしら」


「違うわよ。彼はそうね、私を助けてくれた恩人よ。ちょうどいいから紹介するわ」


 ティニアは琉海に手で示した。


「こちらにいるのが、私とアンジュの命の恩人であるルイ様よ」


「はじめまして。琉海と申します」


 琉海は一礼する。


「ご丁寧にありがとう。私はエスカレッド公爵家当主の娘、リオナ・エスカレッド。こっちにいるのが、イブラスよ。ちなみに、イブラスは、騎士武闘大会に出場するわ」


 後半はティニアに言ったようで、自慢話をする子供のようだ。


「そうみたいね。そっちの組み合わせだと、予選決勝で王族直属の騎士と当たるようだしね」


 王族直属の騎士――王家に仕える騎士たち。


 今回の騎士武闘大会でも、王家に仕える騎士たちは多く参加していた。


 この大会は、祭りであり、人材発掘であるのが表向きだが、結局は王族の権力と武力を見せ付けるためのものでもあるらしい。


 そのため、公爵家以下の貴族たちは一人か二人ほどしか参加させないのに対し、王

族は数十人の数を参加させてくるのだ。


「なに言ってるのよ。それは、こっちのセリフよ。あんたの所の相手は王族お抱え騎士団の部隊長騎士じゃない――ああ、そういうことね。ティニアが代役を立てたから、こんな組み合わせになったということなのね」


 リオナの思考の中で点と点が繋がったようだ。


「ご愁傷様。代役を立ててまで、参加して予選敗退になった後どうなるかは知らなかったのかしら」


「リオナこそ知らないのかしら。代役を立てて、本選で活躍した後の見返りを」


 リオナの言葉にティニアも応戦する。

 見返り。


 これもティニアから馬車の中で聞いていた。


 この国では強い者との繋がりを高く評価している。


 優勝でもすれば、その家系に様々な貴族たちが、何かしらの縁を結ぼうと躍起になる。


 注目を浴びることができるだけではなく、優秀な人材を引き抜く能力を王国中に知らしめることができる。


 それが見返り――代役を立ててまでもこの騎士武闘大会で功績を残したい理由。


 ハイリスク・ハイリターンだ。


 それをリオナが知らないわけがない。


「ふん、まあ精々頑張ってみなさい。その妄想が破綻したときの顔を見てあげるわ」


 リオナはそう言い残して去った。


 リオナたちの姿が見えなくなると、アンジュが口を開いた。


「これで、エスカレッド公爵家が裏工作した可能性はほとんどなくなりましたね」


「そうね。まあ、エスカレッド家とスタント家はまだ仲良しと言えるぐらいには、お互いのことを知っているから、可能性は元々低かったわ。それに、ルイ様が本選に出場して活躍してい頂ければ、なんの問題もないわ」


 後半は琉海に向けて言っているようで、ティニアの視線が琉海に向く。


「頑張ります」


 プレッシャーをかけ続けてくるティニアに琉海は内心で苦笑いをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る