第45話 賊狩りの誕生

 その後、静華はクリューカに魔法を習い、習得していった。


 魔法も使えるようになって、クリューカの研究にも協力する。


 そして、はぐれた女子二人を探すために森の中へクリューカと一緒に森へ入った。


 何か手掛かりがあればと探したが、広大な森の中で手掛かりを見つけるのは困難を極めた。


 四か月の捜索でもう見つけるのは難しいだろうと諦めたとき、奴らが現れた。


 女子生徒二人とはぐれるきっかけとなった男たちだ。


 視界に入った瞬間、物陰に隠れた。


「あれは盗賊だな」


 クリューカは一目で奴らの身元を見極めた。


 そして、盗賊たちがなぜこの村にいるのかも教えてくれた。


 奴らはこの森周辺を根城にしており、小さな町や村で悪さをしてはこの森に逃げ込んでいるとクリューカが教えてくれた。


 この森には魔物も生息しているため、小さな町や村では対処ができずにいるようだ。


 そして、盗賊の集団の中には、知っている顔がいた。


 あの夜に静華たちを売って生き延びようとした男子二人だ。


 仲間のように盗賊たちと会話をして楽しそうにしている姿にイラっとさせられる。


 そのとき、無意識に動いてしまったのか体が草に当たる。


 カサッという音が微かに漏れた。


「おい、誰かいるのか?」


 目ざとく、その音に反応した男がこちらに視線を向けた。


 男の一言で他の者も静華の隠れている場所へ視線が集まった。


「おい、少し探ってこい!」


 盗賊集団のリーダーと思われる男が顎をしゃくって部下に命令する。


 その中に、同級生二人もいた。


「チッ! やるぞ」


 クリューカは舌打ちして、隠れるのをやめて飛び出す。


 静華もクリューカに続いた。


「はっ、女じゃねえか」


 静華たちを見て舌なめずりして、いやらしい視線を向けてくる。


 同級生の二人もすでに盗賊側のようなのか、二人も短剣を抜いた。


「仕方ない。手加減はなしだ」


 その視線に機嫌を悪くしたのか、クリューカの口調に怒気が含まれていたように思う。


 これが初めて見るクリューカの戦闘する姿だった。


 クリューカが先制で魔法を放った。


 それも魔法の連発。


 すべての属性を高い水準で扱うことのできるクリューカは、様々な属性を駆使して、盗賊たちを殲滅する。


 盗賊たちがやられる中に紛れて、静華の同級生二人は逃げだした。


「シズカ!」


 クリューカが視線で行けとを合図を送る。


 静華は頷いて駆け出した。


 四か月でクリューカに鍛えられた静華の強化魔法は、練度の高いものだった。


 多少相手が魔法を使えたとしても、問題ないぐらいに強くなっており、二人に追いつくのも簡単だった。


 魔法の練度の差だ。


「待ちなさい!」


 追いつかれたことで二人は足を止めた。


「はあ、会長生きてたのか」


「あの女たち二人と同じように死んだと思ってたんだけどな」


「彼女たちを知っているの!?」


「あいつらは魔物の餌になってたよ」


 口角を上げて笑みを浮かべる同級生。


 二人の表情は四か月前とは別物になっていた。


 濁り切った表情。悪に染まり切った目。


「あんたたち……」


 学校では知らない面を見せる二人。


 この世界で本性が露わになったのだろうか。


「今回は見逃してくれないか?」


 一人が提案してくるが、そんな交渉をする気はなかった。


「あんたたちは、罰されるべきよ」


「こんな世界で罰も何もないだろ。はあ、仕方ないか」


 そう言ってもう一人が左目を隠す髪をかき上げた。


「あんたの大切にする感情を封印する」


 何を言っているんだと思った瞬間――


 スッと何かが抜け落ちた感じがした。


 その違和感は一時の動揺を静華に与えた。


 静華が動揺をしているうちに二人は再び駆け出す。


 冷静な状態ではなかった静華は身体強化の魔法をうまく使うことができず、二人を見失ってしまった。


 彼らも魔法を使えるようになっていたようだ。


 戻るとクリューカが盗賊たちを捕らえ終えていた。


「どうだった?」


「逃げられました」


 静華の表情にクリューカは何かあったのかと思うが口に出すことはしなかった。


「そうか、こいつらを運んでもらうよう手配しよう」


 町の兵士に伝え、運んでもらうことにした。


 家に戻ると、クリューカが真剣な顔で静華の前に座る。


「あの二人の少年を追って何があった?」


 真剣な表情に静華も応えようとするが、


「それが、何をされたのかわからないんです。ただ、なんだか胸にぽっかりと穴が空いたような感覚があって……」


 静華は自分の胸に手を当てる。


「胸に穴のような感覚……か」


 クリューカは精神に何かをされたのだろうと推測した。


 何をされたのか明確にするため、クリューカは色々と質問した。


 その結果、わかったことは、精神系の能力で恋愛感情を無くしてしまったことだった。


 これを解除する手立ては術者を殺すか術者に解いてもらうしかないとのことだった。


 静華にとって強さは恋愛感情に結びついていた部分があったようで、その基盤ともいえる感情が消えてしまったせいで、魔法が使えなくなっていた。


 しかし、魔法は魔力さえあれば、すぐに使えるようになると言うクリューカ。


 それよりも、その術者をどうするかという方が重要とのことだった。


 静華は探し出すと即答した。


「そうかい。なら、何も言わない。私も探してみるが、その少年には気を付けることだ」


「はい。でも、そんな魔法があるなんて知りませんでした」


「いや、あれは魔法ではない。一種の能力と言えるものだ。稀に魔法とは別の能力を持つ人間がいる。彼らを《トランサー》って呼んでいる。おそらく、術者は精神系の《トランサー》でシズカに暗示をかけたのだろう」


「だから、魔法でどうすることもできないんですか?」


「そうだろうね。魔法は属性に類する事象しか起こせない。まあ、高位の精霊で精神系の能力を持っていれば、可能かもしれないが、いるかもわからない高位精霊を探すよりかは、術者を探した方が、早いだろう」


 クリューカの説明で静華は決心を固めた。


「行くのかい」


「はい。親切にしてもらって、お礼もちゃんとしてないですが……」


「別に構わない。私がシズカを気に入ってやったことだ。気にする必要はない」


 静華はお礼を言って支度をはじめた。


 その翌日には、同級生二人を追うために情報を集めた。


 信憑性が高い情報を頼りに町や村を転々とする。


 情報では賊の集団に混じって何かをやっているというものだった。


 情報を手に入れるたびに、向かうのだが、逃げられてしまう。


 だが、静華の足止め用なのか、賊たちだけが残っていることが多く、二人の情報を手に入れるために、半殺しにして吐かせることも多かった。


 その後、賊を捕まえ、ギルドで懸賞金を受け取るようになった。


 そして、それを繰り返すうちに静華に付いた異名が『賊狩り』だった。

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